『蝶の道行』

 何時もの後援会の踊とは違うので、雷蔵さんの意気込みも自然違うのでしょうか?助六や保名とはまるで別人のような、蝶の道行の熱演には少なからず驚かされました。正直な処雷蔵さんさえ見れば良い位に思って、あら御免なさい毒舌が感染したのかしら・・・

 踊には大して期待してなかっただけに、本当に嬉しゅう御座居ました。今迄は狭い舞台で練習不足というハンデもあったのでしょうが、市川雷蔵の踊としては余り感心出来無いと内心思っていたのですが、蝶の道行はどんな立派な檜舞台に出しても恥ずかしくない出来栄で、ファンが御覧になれないのが残念な位、鮮やかでした。機会があったら是非もう一度上演して頂きたい。御忙しい時間をさいて見にいらっしゃった寿海さんも、嘸かし御満足だった事と思います。

 御覧になれなかった方にちょっと御紹介致します。紫地に縫の模様の有る着付で、スポットの当った花道をせり上って来る雷蔵さんに、ワァーという嘆声が一せいに洩れて、錦絵から抜け出した様にすっきりと美しい。くどきも悪くないが、白い蝶に引抜いてから鷺娘を想わせる様な振が見事。苦悶の表情に身を震わせている所は、川口秀子さんとの息もぴったり合って、最后迄迫力が有って惹きつけられる。斃れてもまだ必死に相寄る二人の幕切れは哀れさと余韻が有ってとても良かった。

(中略)

 地方も綱太夫、弥七と最高のメンバーを揃えて豪華でした。私にとって『蝶の道行』は』『若き日の信長』と共に今年一番感銘の深かった作品になりました。(後援会誌「よし哉」より、熱海・とみ子の署名あり)

 ほんとうに、直に雷蔵さんの舞台をご覧になり、富樫をこの「蝶の道行」を、目の奥にそして心の中に刻まれた方が、羨ましくてしかたありません。(みわ)