勧進帳

  

 

 安宅関を守る北陸随一の知将 富樫左衛門。
山伏に化けた義経主従ですが富樫の疑いの目はするどく、弁慶に勧進帳を読んでみろと迫ります。
 次いで仏教の難解な質問攻めをしますが、それにも弁慶はスラスラ答えます。通行が許されたその時、関所の番卒が強力姿の義経に気付き絶体絶命の瞬間、「愚かな強力め!荷運びがグズだから怪しまれるだ!」と弁慶は主君を涙ながら杖で打ち据えます。それを見た富樫は義経と知りながらも、一行の絆に心打たれ関を通すのでした。

 品と温の義経、剛と智の弁慶、節と情の富樫、三人の芝居は「人間を信じる勇気」を描き出しています。
 

 

 

納戸地松革菱に鶴亀散らし素襖(すおう)と大口袴
瓢箪と巴模様の半着付け、革色と白茶のしめきり(交互に染め分け)

 

 

 鶴之助の弁慶はもう百回も手がけているそうですが東京では初めてです。覇気と迫力との若々しい弁慶はアッと目をみはらせるほどの出来栄えでした。出端に「実にや紅の−」のせりふを復活したり延年の舞では一度花道に行って鳥とびを見せたり、衣裳も七代目団十郎の初演に還したり、いろいろ工夫が凝らされていました。

 雷蔵が久しぶりの舞台で富樫を熱演して素直な演技力を示し、猿之助も義経を神妙につとめていました。人気役者三人の<勧進帳>は今月のヒット作にあげられましょう。

一の谷物語

 

 熊谷次郎直実は敦盛の首を討って以来無情を感じて出家した。熊谷の孫娘萩明は盲目であったがふとしたことから敦盛の霊魂と恋に陥ちた。平家一門はこの恋に反対を唱えたが二人のきずなは固く愛の魂は霊界をさまよった。

(「演劇界」1964年2月号より)