山 崎 豊 子  原作
辻 久 一  脚色 演出

ぼ  ん  ち

 大阪西横堀の足袋問屋河内屋は、船場に四代続いた老舗である。しかも代々家付き娘に婿養子を貰い、女の血統でのれんを守って来た。

 当主の喜兵衛も、先代のお家はんきの(英太郎)の眼がねにかなって、番頭から河内屋の一人娘勢以(中村芳子)の婿となった。ところが勢以の生んだ子供は男の子だった。河内屋の血統にはじめて跡とり息子が生れたのである。その喜久治(市川雷蔵)は、二十四才に河内屋はじまって以来の嫁を迎えた。

 河内屋の若御寮はん弘子(安部揚子)と喜久治の間に、男の子の久次郎が生れた。女の血統であるようにと祈っていた勢以は世間とさかさまごとに口惜しがった。

 そのせいかきのと勢以は、弘子が節季の掛取りに行く丁稚のお仕着せを間違えたと言って、船場のしきたりの守れん女は、跡とりも出来たことだし、離縁しようと言い出した。

 ぼんぼん育ちの喜久治は、四代にわたって河内屋に執念のようにしみこんだ女の血統には勝てなかった。

 

 

  

 

“わいはな・・・もう一生、嫁は持たへん・・・”と言い切った喜久治。それからは茶屋遊びが目立つようになった。金があって、独り身で、男前のいい船場の若旦那が、色街の女にもてるのは当り前のことである。

 

 

 

 今日も新町富乃屋の二階座敷で遊んでいた喜久治は、その家の養女幾子(千葉昭子)から父親の喜兵衛に君香(緋桜陽子)という女があったことを聞いた。喜兵衛は喀血して病床についているのだが、その看病がしたいというのだ。君香と一緒に入って来た芸者ぽん太(淡島千景)も君香に同情して喜久治にたのむ。喜久治は君香を家政婦に仕立てて父の看病をさせてやった。しかし喜兵衛は“気根性のあるぼんちになってや・・・”と喜久治にいい残して世を去った。

 河内屋ののれんを継いだ喜久治は、ますます派手に遊んだが、決して商いをおろそかにするようなことはなかった。