喜久治はぽん太を落籍して妾にした。そしてぽん太は本家伺いを無事すませて公認となった。ぽん太の母も芸者だったので、そのしきたりを聞き知っていたのである。中の間できのと勢以にまじめくさって挨拶するぽん太を店の間から不安そうにのぞく喜久治、挨拶をすましてぽん太は喜久治には目もくれずにさっさと帰って行く。後をあわてて追いかけ、新町橋でようやく追いついた。ぽん太は挨拶の席へ喜久治が顔を見せなかったことを怒っているのだ。ようやく気嫌もなおり、夜に逢おうと約束して別れるのだった。

 喜久治にはぽん太の他に富乃家の幾子、宗右衛門町浜ゆうの仲居頭お福(霧立のぼる)、道頓堀のカフェ赤玉の女給比紗子(渡辺千世)、そして南の舞妓小りん(緋桜紗子)と女の数も五人になっていた。

 

 

 ぽん太と幾子に男の子が生れたが、久次郎という跡とりがあるため、船場のしきたりとして生れるとすぐ里子に出した。幾子は産褥で死んでしまった。

 冬の夜、喜久治は馬好きの比紗子につれられて淀の競馬場へ行った。なれぬ洋服で長い間スタンドにいたため寒気がして来て、あわてて帰って来た。そして蒲団にもぐり込むとすやすやと寝てしまった。

 翌朝大番頭の和助(井伊友三郎)が駈け込んで来た。米英両国と戦争が始まったのだ。あわてて起き上った喜久治はさすが船場の商売人である。早速綿布の買入れにかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦争の被害は喜久治の上にも振りかかって来た。あの女の血統で守り続けて来た河内屋の蔵や大黒柱も、戦災で一瞬にくずれおちてしまったのである。その中でたった一つ商い蔵が焼け残った。水おけを入れた為らしい。喜久治は和助に炊き出しの用意をさせ、女達の来るのを待った。

 戦災に合って女たちは次々と集って来た。ぽん太、小りん、お福に比紗子、喜久治は女たちを前にして、いままで放蕩の限りをつくした人生の帳尻を合わす時が来たと決心した。

 

 そこへ船場が焼けたと聞いてきのと勢以がもどって来た。二人のものは焼けて何一つ残っていない。気が狂ったように叫ぶきの、そして川へ落ちて死んでしまった。船場と一緒に死んで行ったきのは幸せかも知れない。喜久治は女の血統で守って来た河内屋はなくなり、生まれかわって久次郎とぽん太の息子太郎の二人を両腕にして、男の血統によって河内屋を建て直そうとするのだった。