終戦後は一時占領軍の指示で、映画のチャンバラ時代劇に制限が加えられた時期があったが、それがゆるめられると、とたんに時代劇は盛りかえして来て、占領軍が去りしあとの現在では、時代劇ブームのきざしさえ見せている。

 映画の時代劇復活によってまず考えられたことは、阪妻、市川右太衛門その他の戦前からの大御所スタアのあとを継ぐべき新進の人々の育成ということであった。そうした要望によって登場したのが、まず松竹の北上弥太郎であった。北上弥太郎は、大阪歌舞伎では嵐鯉昇を名乗っていた青年俳優であった。歌舞伎畑から、時代劇スタアをひきぬくことは最もてっとり早い方法で、戦前の右太衛門・千恵蔵・寛寿郎の大物から、市川小太夫・澤村国太郎・市川男女之助・加東大介(市川莚司)などの面々はみなこの道によった人々である。最近現代劇のスタアがチョン髷をつけることも流行っているが、これは特殊な時代劇の場合はいざ知らず、一般に時代劇スタアは立居ふるまい、剣の差し方、袴のはき方くらい心得のある歌舞伎畑からの人々のほうが便利であることは間違いない。

 こうして昭和26年に北上弥太郎は松竹京都撮影所へ入社し、翌年『出世鳶』でデビューした。髷も勿論いたにつき、時代劇的な風貌も立派で、次々と作品に出演、時代劇では一応、第一線スタアとなったが、まだ沸騰的な人気がわくというところへは行かない。出演映画の質による運ということもあるが、あまり役で苦労している様子が見えず、器用にこなすところで、本人も周囲も満足していることが災いしているのではないだろうか。殆んど時代劇一本槍で進んで来たのだから、この辺りで大成を願いたいものだ。

 彼の映画入りと前後して、東宝は『佐々木小次郎』の小次郎役に、大谷友右衛門をひっぱり出した。彼の性情には、何処かニヒリスチックなものがあるのか、小次郎役はハマリ役だった。その後次々映画に出演しているが、皮肉なことに『誘蛾燈』にパチンコ屋の息子、『噂の女』のアプレ青年医師など、現代劇の彼の役柄が一番印象深い。こうした現代に生きるニヒリスチックな青年の役に、不思議とよい雰囲気を出して見せる、役者である。最近歌舞伎復帰の噂もきき、女形出身だというが、映画では男性的魅力も充分にあり、映画の水にも肌の合う人と見ている。

 大谷友右衛門と同じように、歌舞伎俳優から出ていながら、現代劇でよい演技を示したのに岩井半四郎がある。『帰郷』という映画のなかで、これも少々イカレ・ポンチ式のアプレ青年を演じてアッといわせた。その後時々時代劇映画で顔を見るが、これという作品がなく、彼の本拠はやはり歌舞伎にあるらしい。

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あった。