主な登場人物

主人公: 一つ屋嘉平次
一つ屋五兵衛: 嘉平次の父
塩町の姉: 嘉平次の姉
幾松: 嘉平次の弟
さが: 柏屋の遊女
柏屋半兵衛: 柏屋主人
印伝屋長作: 嘉平次の友人
さわ: 嘉平次の許嫁

かいせつ

 遊女と客の傷ついた愛を表現する心中物。江戸時代ならではの死生観が二人を追い詰める。おさがは大坂伏見坂町の柏屋の遊女。茶碗屋一ツ屋の嘉平次と恋に落ち、やがて生に行き詰まった嘉平次と死の道行を決意、生玉神社で心中をとげる。

ものがたり

 柏屋の遊女さがは、客に連れられ神社を廻り、天満天神の茶屋へやってきた。知らせを受けて飛んできた恋仲の茶碗屋嘉平次は、さがを店の外に誘い出し、遊びが過ぎて金に困っているが、友人の長作に父の店の品物を売ってもらって何とか都合がつきそうだと話す。そこへ通りがかった嘉平次の姉と弟が店へ雨宿りにやって来たので、二人はあわてて駕籠の中へ隠れる。

 嘉平次と待ち合わせをしていた長作が店に現れ、嘉平次に頼まれた品物の代金はすでに渡して、受け取りまでもらっていると話す。嘉平次は姉たちの手前、駕籠から出られずいらいらしていたが、姉の家から迎えが来て、姉たちは帰って行く。嘉平次は駕籠から飛び出し、金を渡せと長作に迫るが、品物を騙り取られたことを知り、大喧嘩になる。さがは騒ぎのうちに引き離され、雨の中を柏屋へ帰って行く。

 月末に借金の催促を逃れていた嘉平次は、さがを連れて夜半に大和橋の出店に戻る。不審に思った家主は、嘉平次の父に知らせる。ほどなく父は、嘉平次の許嫁きはを連れて駆けつけ、きはと夫婦にならぬなら自分の腹を刺して死ぬと迫る。死を覚悟していた嘉平次は、最後の親孝行と、口先だけは父の意見に従ってみせる。安心した父は嘉平次の窮地を救うために、小判を与え戻って行く。そこへ長作が現れ、その小判を持ち去ろうとするが、嘉平次はこの金だけは渡せぬと必死に争い追い返すが、隙を見て金はすっかり奪い取られてしまう。

 もはや生きてはいられぬと、出店を抜け出した嘉平次とさがは、生玉社の馬場先の松原へと向かう。死に顔が雨に打たれては醜いと、茶店の床机を最期場に選ぶ。そこへ柏屋の主人とさがの妹女郎が探しにやってくる。嘉平次とさがは、よしずを体に巻いて身を隠す。主人と妹女郎をやり過ごした嘉平次は、その場で父に貰った脇差でさがを刺し、自分もさがの帯で首をくくって死んだ。

れきし

 嘉平次おさがの心中事件の実説は定かでないが、一説には、1715(正徳5)年五月五日、生玉神社で実際に起きた心中事件を近松門左衛門が脚色したものという。「曽根崎心中」のお初・徳兵衛の十三回忌をあてこんで書かれた作品。