蓑助の加わった花形歌舞伎
八月、ふと南座の表を通ったら、ちょうど初日で、花形歌舞伎が開いており、たった四十円だったので、まったくの予定もなく、大分過ぎていたが入った。蓑助がいつもの補導役だけでなく、一役ニ役買っていたので、大人の舞台となっていた。
【勧進帳】
すでに済んでいて、見られなかったが、扇雀の源判官義経だけが心残りだ。
【父帰る】
蓑助の黒田賢一郎がさすがに芸が大きい。田中千禾夫の演出で、非常に素直なのが気持がよい。扇雀の弟新二郎、大作の父宗太郎、延之丞の母たかなど、いずれもまあまあの出来。
【修善寺物語】
これも蓑助の面作師夜叉王が断然一流だ。これに伍して扇雀の姉娘桂がすばらしい出来だ。ことに桂川の場では、適役のはずの延二郎の源左金吾頼家がすっかり扇雀に舞台を浚われてしまった形。扇雀は声が少し変わっていたが、芸が大きくなったのはよしとすべきであろう。鯉昇の楓の婿春彦、莚蔵の妹楓、三津三郎の金窪兵衛行親などよくまとまっていた。
【道行恋苧環】
前に見たのと同じ配役だが、秀公が相変わらず進歩していない。(八月十八日、観劇)
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