昭和二十六年

 一月〜七月は日記に短評を記したとあるが、その日記は残っていない。番付は、左記のものがある。

六月 東西合同大歌舞伎 六月興行 【歌舞伎座】 

▼寿海・寿三郎・仁左衛門・蓑助・訥子・富十郎の一座。時蔵の戸無瀬、弁慶上使の針妙のおわさの好演と、「少将滋幹の母」の子方の役の彦人の可憐な姿が印象に残る。この興行で、莚蔵が寿海の養子となり八代目雷蔵を襲名する。

 六月五日初日、十七日より入れ替え、第一部「伊豆の椿」三場 「おもいで曽我」ニ場 「仮名手本忠臣蔵」山崎閑居の場 「弁天娘女男白浪」浜松屋より勢揃まで 第二部 「箱根霊験堂仇討」 「少将滋幹の母」四幕五場 「御所桜堀川夜討」弁慶上使の場 「伊勢音頭恋寝刃太々講」福岡孫太夫邸の場

狂言立はうまいが

 九月の歌舞伎座の第一部は、狂言立は実にうまい。先ず大阪の芝居として「いろは新助」を、続いて丸本物の「伊賀越え」を、さらに呼び物の「鳥辺山」、最後に所作事三つで打ち上げる。まさに常道である。

【水や空や】

 又一郎の松行灯売り扇蔵・又一郎久々の出演だが、これもたいしたものではない。これも作品がよくないのだ。延二郎の藤棚飛脚藤吉の踊りが、雛助の「夕ぎり」のおさわ、延太郎の「静御前」のおかく、雷蔵の「梅王丸」の富吉の中で、ひときわ目立っていたのはさすがである。(九月十四日、観劇)

 九月二日初日、入れ替えなし。第一部「いろは新助」 「伊賀越道中双六」小場より平作内、千本松原まで三場 「鳥辺山心中」一幕ニ場 「蚤取男」 「水や空や」 第二部「羅生門」三幕五場 「一の谷嫩軍記」熊谷陣屋の場 「小鍛冶」 「与話情浮名横櫛」玄冶店の場