昭和二十八年

中座の東西合同大歌舞伎

 四月は、珍しく中座に仁左衛門一座ならぬ関西歌舞伎がかかっている。鴈治郎を中心とする中芝居だが、始めは鴈治郎一座の結成と思われていただけに、純上方芝居を期待していたが、結局は訥子・富十郎・新之助を加えたので、東西合同とやらの形になってしまった。

【摂州合邦辻】 安居庵室の場

 訥子の修行者合邦、鴈治郎の高安後妻玉手御前の息があって佳良である。鴈治郎もこういう女形になると、いかにもその形のよさが目に付く。雷蔵の高安俊徳丸が立派にこの一座の中で見劣りのしないところまで成長したのには驚かされた。息女浅香姫に上村吉弥を抜擢したのも賛成で、その演技はまだ十分ではないが、台詞とマスクの美しさは大いに楽しめる存在になろう。新之助の合邦女房おとくも案外の上出来だった。

【生玉心中】 二幕

 たしかに今月の収穫の一つ。鴈治郎の一ツ屋嘉平次はさすがに上方の味である。富十郎の柏屋おさが、成太郎の嘉平次姉おさんなど、いずれも佳作の中に、ここでも雷蔵の嘉平次弟幾松が目に止まった。

 月三日初日、十三日より入れ替え、昼の部「実説下田のお吉」三幕五場 「義経千本桜」下市釣瓶酢屋の場 「道行初音旅」 夜の部「沓手鳥孤城落月」乱戦より糒庫まで 「摂州合邦辻」安居庵室の場 「生玉心中」ニ幕 「三社祭」
 六月、歌舞伎座で関西歌舞伎つくし会公演として、「仮名手本忠臣蔵」大序より六段目までが上映されたことを付記しておく。(6月26日、早野勘平を演る。)

昭和二十九年

新鮮味を欠く狂言立

 一月の歌舞伎座の関西歌舞伎の安定を見せた上演狂言の配列は、いきおい新鮮味を欠くことになり、寿三郎の熊谷にしても寿海の鳥辺山にしても又かと思われる。それだけに、興味はニ、三の新しい配役と各役の進境にかかっている。

鳥辺山心中】 二場

 寿海の菊地半九郎と富十郎の若松屋の遊女お染が、依然として当代の名コンビだが、雷蔵に坂田源三郎を配したのはやはり無理だった。坂田市之助の蓑助と釣合いが取れない。

【新板色読販】

 少々騒々しいが、鴈治郎の番頭善六と吉三郎の松屋源右衛門で存分に笑わせて、それだけの効果をあげており、雷蔵の丁稚久松、扇雀の山家屋娘お染のコンビも美しい。ただ富十郎に油屋の後家おみねを配したのは、これもミスキャストで、先の藤の方とともに、これも菊二郎の役だった。

 月三日初日、十三日より入れ替え、昼の部「実説下田のお吉」三幕五場 「義経千本桜」下市釣瓶酢屋の場 「道行初音旅」 夜の部「沓手鳥孤城落月」乱戦より糒庫まで 「摂州合邦辻」安居庵室の場 「生玉心中」ニ幕 「三社祭」