二組の父子競演が話題

 九月の関西劇団では父子二組がそれぞれ仲よく舞台で競演しているのが話題となっている。

 その一つは新歌舞伎座での寿海と雷蔵、それに文楽大阪公演での綱太夫、咲太夫父子だ。新歌舞伎座の方は既報のように、雷蔵二度目の舞台出演だし、芝居も面白いし、本人大はりきり、前二回よりグッと進境を見せたのは当然ながら目につく。「獄門帖」で父寿海十余年ぶりの石出帯刀をやっている、初演勘三郎(東京)、再演鴈治郎(大阪)、三演の蓑助−現三津五郎(南座)以来だが、こんどの喬之介はこの三人の先輩を上廻る好演に好劇家をよろこばせている。紫の都築の妻が巧いので一そう芝居をもりあげた。

 「切られの与三郎」は歌舞伎のそれと、実説といわれる芳村伊三郎の話を一緒にして榎本滋民が新たに書いた本だが、もう一つスッキリとしたものがなく、「源氏店」を洲崎の弁天の土手にしたり、あれこれと手は打っているが、期待外れのようだ。「眠狂四郎」は雷蔵が映画で当てたものだが、サテ舞台でやると映画ほどの面白さのないのは止むを得ない。それより寿海が舞踊「競華扇」で女優軍相手に若返った踊りを見せているのがおもしろい。

 「倅を相手にしているのですから、わたしも若返らなくちゃ」と寿海老大はしゃぎ、「そのうちに雷蔵も舞台のことを考えて・・・」とチョッピリ心配。

 もう一つの方は朝日座の文楽で、こんど初代豊竹咲太夫を襲名した綱太夫の長男綱子太夫。六十余年ぶりに出た「鬼一法眼三略巻」の通しのうち「菊畑」で虎蔵を語り、父が鬼一をやっている。元気一ぱいなのでなかなか評判よろしい。「口上」でたくましく育った倅を「御覧のように健康にめぐまれておりまして・・・」といって客席を笑わせると、すかさず咲太夫が「親の光は七光りといいますが、私の場合は八光りで・・・」と綱の頭を引合いに出して大喝采。(菱田雅夫)

『獄門帖』