さまざまな話題をなげて昨秋ベルリン・オペラで華々しく開場した“日生劇場”。水谷八重子、仲代達矢のユメの顔合わせによる師走興行に続く新春の舞台は、古典もの、前衛ものと幅広い活躍ぶりで演劇界で注目される人・武智鉄二が制作、演出する歌舞伎公演。

 この人には、従来から“武智歌舞伎”といわれる、古い資料にもとづく新解釈とユニークな演出理論で関西若手歌舞伎を育ててきたキャリアあり、今回の出演者、中村扇雀、坂東鶴之助らは、その武智歌舞伎の出身だけに、その芸の探求はどんな舞台をつとめてもキラリ光るものを持っている。

 加えて、明日を背負う人と一番期待されるホープ三代目市川猿ノ助に、大映のトップスタアで舞台は10年ぶりという市川雷蔵を迎えてのその顔ぶれは何ともすばらしい。

 昼夜四本立てで、昼は近松門左衛門作「心中天網島」の通し狂言に歌舞伎十八番の「勧進帳」。夜は、鶴屋南北作の「双面道成寺」の通しと、石原慎太郎の新作「一ノ谷物語〜琴魂〜」という組み合わせ。

 ここでは、「一ノ谷物語〜琴魂〜」だけをとりあげて紹介しよう。