朝丘雪路の横櫛お富、雷蔵の切られ与三郎

 意外に面白かったのは榎木滋民脚本、阿部広次演出の『切られ与三郎』であった。もとより『与話情浮名横櫛』の書替えものだが、朝丘のお富が深川芸妓から柳永二郎の赤間源左衛門に引かされて、木更津で与三郎を割りない仲となり、与三郎が処置されても無事だったのだが、赤間を離れて江戸に戻り、深川で二度の褄をとり、多左衛門に囲われ、更にまた与三郎と牢仲間の小悪党、訥升の観音久次とも世帯を持つという、多情のカルメン型の女としているのが最も変っているこの新作である。朝丘は、すっかりこうした蓮っ葉女になっていて、はじめ紫ではないかと思ったほどだった。

 雷蔵の与三郎は、初め若手の長唄うたいとして木更津の浜に現れるところ、人柄も姿も最もふさわしくてよかったが、三十余ヶ所の傷ある身となって洲崎の浜でお富と出会うところから先は、どうも悪事を重ねたならず者とはなり切れぬものがあり、今は改心して釣船の三婦もどきに数珠を持つ小悪党には寸たらずの観のある訥升と共に、こうした歌舞伎的人物のむずかしさを感じた。(北岸佑吉 演劇界66年10月号より)