皆さんが如何に近代青年であるかがよく分りました。(笑)それでは関西歌舞伎と云うものに望むところ、即ちはっきり云えば不満とか、今後よくして行きたいという希望、そんなものを率直に聞かしてくれませんか。

延二郎 第一はなんと云っても脚本のカットの仕方の悪いことです。

鯉昇 脚本でもよいところをどんどん切って却って悪くしている様な有様ですよ。ひどいのになると文章が全然つづいていない。

小金吾 そうなんだよ、だから役のよいのはますますよくなっているが、悪いのは尚一そう悪くなっている。時代ものでもつまらぬ仕出しであって立派に説明役をしている様な役をカットしているのです。源太勘当で軍内もどりのないのを平気で出している有様ですよ。腰元にしても@ABの順番はセリフの数できめるのです。前に“町の灯”と云うのがありましたが、それで三つ四つセリフのある捕手の役をさせてもらいました。その時セリフなしの泥棒の役を大部屋のある人がしましたが、幕が開いて見るとそのセリフなしの泥棒が、一人舞台で実にいい役なのです。それで松竹になぜあの役を僕にさしてくれなかったのかと云いますと、あの役はセリフがありませんからね、と云う返事でしたが、それを聞くと馬鹿々々しくなりました。

延二郎 それから今の腰元をしている人達がなっていない。お白粉をぬりたい為に芝居に入って来るので、舞台では皆お姫さんの様になっている。

鯉昇 芝居外さと変態性とか云われるが、舞台ではそんな心配がない、それで、入ればすぐ眉毛を剃るのですが、そんな奴に限って普段はネチネチしていて舞台ではコチコチなんですよ。

 結局劇団組織になっていないのがいけないので、誰か注意してくれる人がほしいものですね。

靖十郎 東京のよいと云うのはそれで、何かにつけて親切ですから、その点僕等は何時も羨ましく思っています。

 皆さんの大阪劇壇なのですから、どうか皆さんの手で住みよい、芝居のしやすい所にして下さい。ところで今後の役についての希望・・・例えば忠臣蔵が出た時、皆さんのやりたい役について・・・。

延二郎 僕は勿論師直!

鯉昇 矢張り大和屋の小父さんみたいに立役で渋いところを行きたい。由良之助、若狭と云ったところかな。

莚蔵 僕は先程も云った様に女形は絶対にイヤです。二枚目で行きたいので、勘平、判官がしたいです。

太郎 寿海さんの役を行きたいと云うわけだな。僕ははっきりわからないが矢張り女形だろうな。

扇雀 僕は欲ばった云い方だけど、何も勉強だからどの役もして見たい。

秀公 僕はまだ子供ですし、今の処学校があるのでまだまだ先の事です。どの役がしたいとは云えません。

延二郎 それでは学生アルバイトとして力弥はどうです。

秀公 力弥は絶対いやです。

靖十郎 僕は矢張り、若狭、平右衛門、本蔵、千崎、それに・・・。

小金吾 随分欲ばってるね。僕は地味にまあ平右衛門としておこう。

 よくわかりました。それでは最後にこの頃盛んに話題になっている映画出演についてどう思いますか。

一同 出たいと思います。

鯉昇 今度六代目さん一座の人が『群盗南蛮船』を撮られた様に、僕達これで映画が撮って見たいなぁ!

 皆さん誰もが出たい希望らしいですが、出たい理由は?

鶴之助 映画に出る事は一種のあこがれだと思います。

小金吾 今僕達がしている事は、今の時代にないところのものですから、一つのたたくところがほしいと云う意味で、現実的に映画をとって見たいのです。

扇雀 僕は映画と云うものを一応知って見たいと思うのです。勿論歌舞伎役者としてですが、一度出て見たい。否、一度でなく出られるだけ出て見たい。映画の中へ入ってしまう気持は少しもありませんが、歌舞伎も、映画も両方行けるようになりたいのです。

鯉昇 歌舞伎でない映画へ出て見たい。劇中劇と云うのはいやで、時代物でもハムレットの様にしたのがして見たいのです。武智歌舞伎なんか目の使い方をうんと工夫しているので、かぶりつきで見ると面白いと云われるから、映画にして見たらきっと面白いと思うがな?

 皆さんお疲れのところ長時間有難うございました。そろそろ舞台も始まりますから、この辺で・・・。