ドライ派の時代劇

☆スクリーン☆

 東映の沢島忠作品といい、これといい、このところ現代調時代劇というやつがよくはやる。将軍家斉の三十八人目のお妾のこども長之助(新人本郷功次郎)は、徳川家の家庭の事情から突然鷹取藩五万石の城主にされる。まず御親子御対面のうえ任地へというので江戸へのぼることになるが、反対派の一味は殺し屋を雇い、長之助君の暗殺をはかる。そこで彼はかねてあこがれていたやくざに姿を変え、それとは知らない気のいいやくざ半次郎(市川雷蔵)の弟分となって首尾よく江戸へつく。それまでの珍道中記。脚本八尋不二、監督田中徳三。

 お話自体に新味はないが、それを描く映画の話術に新人監督らしいドライさがある。ラブシーンにはいま売りだしのマヒナスタースがコーラスをつけ、立回りはスイカ、傘などをつかってコミカルな味をだすという具合。バカバカしさを承知のうえで、適当におちゃらかしているところがミソだろう。もっともおなじ喜劇調でも往年の山中貞雄や伊丹万作作品のような哀愁がないのは最近の特徴だ。

 雷蔵は今度はもっぱら本郷のもりたて役。本郷は演技に柔軟な素質があって、田中監督とともに生来が楽しめそう。水準作。1時間36分。色彩ワイド。大映。(人見嘉久彦)

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 将軍の若君(本郷功次郎)が部屋住みから大名にとりたてられ任地へ向けて出発する。これに邪魔を入れる刺客団の目をくらますため、にわかやくざになりすますという明朗道中もの。

 この大名とふとしたことから知り合った旅の風来坊(市川雷蔵)が若君を首尾よく任地まで送り届けようという話。割ってみれば『つばくろ笠』の道中物に『江戸っ子祭』の大名の庶民生活の面白さをネラったしろもので、材料に新味はないが、スッキリした画面と手ぎわのよい話の運びで結構たのしませる。

 マヒナ・スターズを登場させヒット曲を歌わせ、変な主題歌以上の効果をあげているなど娯楽物としての田中徳三監督の器用さが買える。本郷功次郎の甘さが気になるが、雷蔵以下淡路、中村玉緒などの演技陣に支えられてまずまずといったところ。(S)

   

 

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