第39号(64年5月9日発行)

市川雷蔵後援会誌 Sep/57〜Aug/65 全43冊

 

「よ志哉」22号

 

 スター後援会座談会「われらはスターの親衛隊」を本号に掲載した折から、今回は手もとに送られてきた三冊の市川雷蔵後援会機関誌、「よ志哉」第22・23・24号をとりあげてみよう。

 A5版28頁で巻頭に毎号6頁から8頁のグラフがあり、表紙は桃色や青、白など一色に「よ志哉」という題字が毛筆体で刷りこまれているという−まずは典型的な後援会パンフレットのスタイルである。

  面白いのは毎号本文のトップに市川雷蔵自身の書いた随想風の文章が組みこまれていること。大映に入社してしばしば共演するようになった歌手の橋幸夫について、彼の今後の作品は「我々がすでに作り上げた既成概念の枠の中へ橋君をはめ込むというよりも、むしろこちらから彼の若さにマッチした方向へ合わして行く方が、現在の映画の在り方に添うのではないかと考えています」と直言していたり、自分の作品の時代考証の誤りに対する批評に「所が私達はそんな事は百も承知でやっている」と反論したりしているのが、率直な彼の一面をみせていて興味がある。

  ファンの発言のほうも、二十二号に掲載されている座談会「永田専務を囲んで大映へ苦言・甘言」が活発な意見が続出して、面白い読みものになっている。ファン代表の四人の女性が、大映永田秀雅専務に大映映画や市川雷蔵のことについてこもごも質問し、くいさがっている座談会である。

  「大映は会社とファンのつながりがない」「今の大映映画の題名はなにか安易に出来上がった感じがする」「映画料金が高く、お正月に上げるとさがらないというのも変です」「セットも大映はずいぶん立派ですが、映画になると良くない」といった意見がつぎつぎと出る。永田専務もいささかたじたじの態である。

 しかもそれが、単なるあげ足とりや悪口ではなく、雷蔵を愛し大映の映画を好んでよくみている人たちの発言だけに、ここには真剣な熱意がこもっている。これは最近読んだいくつかのスター後援会機関誌の中でも、傑出した面白い企画である。

 そこで思うのだがこの試みは一号だけで終わらせてしまうことなく、ひとつ今後監督や企画者、宣伝部、営業部のスタッフなどを囲んで連続した記事にしてみたらどうであろう。毎号数人の後援会代表が出席してこうした人たちと意見を交換する。−その辺から単なるファン親睦会に終らぬ、面白いこのグループの個性が出てきそうである。ディスカッションというものは何度も回を重ねてこそ、はじめて本当の意見や注文が生きてくるものなのだ。

 さて、その他のこのパンフレットの例号記事、「ファンの言葉」「映画評」「グループ紹介」「グループだより」などは前にあげた座談会にくらべるとやや型どおりである。特集ルポルタージュをやって多くの人たちの意見の中から雷蔵の人間像を浮び上らせようとしたり、「質問箱」という欄をもうけて相当具体的なファンからの質問に雷蔵自身に答えさせたり、なかなか苦心のこもった編集もみられる。しかしどの後援会機関誌にも共通する「アイドル・スターに対するファンのモノローグ集」みたいな性格がこのパンフレットにも濃厚にある。

 これだけ多くの熱心なファンを集め、またその集まりをファンの代表が出て、勤めの暇をみて世話役をやり組織化しているというこのグループ。そうなるとこれはもう単なるファン・グループではなくて立派な一つの映画を愛する人たちのサークル組織だともいえる。

 その人たちが集まって会費を出しあいこれだけ立派なパンフレットを出すところまでやってきた。そこまできたのならこれだけ大勢のファンの発言を、モノローグ(ひとりごと)としてその場だけで消してしまうのはまことに惜しい。なんとかこれらの発言をダイアローグ(対話・話しあい)として何かにぶっつけ、さらに大きく発展させていきたいものである。

 その第一歩は、どうやら最初にとりあげたような座談会の形式で、さぐりあてていくことができるのではないであろうか。忙しい中を活躍している「よ志哉」編集部のかたがたに、これをひとつ提案しておきたい。

 七十五歳の雷蔵ファンの老婆が「大映は宣伝が下手じゃなあ」といった、などという「ファンの言葉」を皮肉にとったり笑い話にしたりしてそれで終りにしてしまうことなく、何とかこれをよりよい形で建設的に生かしていきたいものである。率直な人柄をもって知られる市川雷蔵を囲む後援会だからこそ、これは期待しておきたいことだ。(Y・S)

(キネマ旬報61年9月上旬号より)

 年に四回発行されている市川雷蔵後援会々誌「よ志哉」は、九月十五日に出されたも
ので四十巻を迎えた。表紙ウラの八頁からなるアート紙の使い方はとても上手。憩のひ
ととき、春の集いの模様の組写真、それに作品や家庭スナップなどは、なかなか楽しめる。
 二十八頁からなる活版頁も、バラエティに富んでおり、内容があって楽しめる。つまり、会
員の年代も高いのがこの会誌からうかがえるが、大人を対象として編集されている会誌とし
しては上の部。

 なお、十三回秋の集いが、十月十八日京都ホテルのホールで京阪地区のファンを集めて
行われた。堅苦しい雰囲気はやめて、出来るだけ、ファンと雷蔵さんとが親しく遊ぶ機会を
得ようというのが、集いの目的とか。また、十九日には、前日につづいて京都大映を雷蔵さ
んと一緒に見学した。

(近代映画65年1月号より)