新・平家物語

シナリオ

1955年9月26日(水)公開/1時間47分大映京都/カラースタンダード

◆製作意図

吉川英治氏の「新・平家物語」に材をとり、腐敗した貴族文化にかわる武家政治の先駆者となる青年清盛の苦悩と情熱と野心を描き、現代の観客層に訴えたい。

資料集

製作にあたり、略年表・系譜(皇室・後宮・平氏・源氏)・官職略解・官制一覧・考証(建築・風俗・結髪・小道具)・故事解説などを満載した「新・平家物語」資料が作成された。

「新・平家物語限定版」

 溝口監督は扮装にやかましいことで有名だ。ことにそれが『雨月物語』とか『山椒太夫』とか今度の『新・平家物語』のような歴史ものなになると、なお更である。古い絵巻などの風俗資料を参考にして、一々厳密なメーキャップをさせる。『雨月物語』の時なども、衣裳考証の甲斐庄楠音に

 「この映画は外国へ行くんですからネ。一寸した仕出しの役に至る迄、一々何からとったか、訊いたらすぐ答えられるよう出典をハッキリしておいて下さいよ」と云ったの有名な話。

 今度もそれに劣らぬ大がかりな資料調査で、とうとうスタッフで「新・平家物語 資料」なる厖大な本を一冊作ってしまった。プリントして七十五部作ったら、一冊800円からについてしまった。

原作者の吉川英治氏に贈ったところ、

 「この本はニ、三年たったら古本屋の貴重本扱いになる」とタイコバンを捺された。

 「当時の風俗について書いた本は色々あるけれど、これ一冊を見たら王朝時代の風俗なら、上は上皇から、下はいざり乞食迄、衣裳から小道具まで、何から何迄わかるという便利な本は珍しい。新・平家の挿画を描くのに杉本健吉君も随分苦労したけれど、とても一人じゃア手がまわらない。こんなに厖大な資料が短時日で、こんなに立派にまとめられたというのは、映画会社という機動力があればこそだ。ボクも現在の映画製作というものが、一本の映画を作るためにこれだけ大がかりな調査研究をやるとは知らなかった」と大感激。

 ところがそれ以来、これを聞きつたえて「ボクも」「おれも」よ希望者続出で、しかしそれが斯界の著名人が多いときているので、スタッフはありがたいやら困るやら、断るの大弱り。

 「実はあれはもう絶版です」「絶版でもよいから何とか呉れたまえ」無茶ですナ、そんなン。(近代映画臨時増刊 新・平家物語より)