スタジオ歳時記

「春うらら」

 東オープンに建てられた『朱雀門』の巨大セット(紫宸殿)の前には、陽ざしを求めて仕事の疲れをいたわる女優さん達の姿が見られ、此の日は珍しく暖かい日であった。

 無造作に半纏を羽織って、雑誌を読む姿も心なしかなまめいて、柔かく反射するクリップの光にも、衣ずれの様に忍びよる春の気配を感じるのだった。

(大映京都 美粧係 小林正典)

 十二単を着るまで

 
 十二単といえば、宮中の女性が即位、朝賀、婚儀といった大礼にしか着ない正装で、源平時代以降の俗称である。

 元来平安時代女性の正装として、内衣に紅袴をつけ、その上に単、五つ衣、打衣、表着を重ねて着て、唐衣裳を打ち掛け着たもので、そのうち平安末期には衣を重袿といって数多く重ね着る風があり、その重袿を十二領重ねて、下に単を重ね着たのを十二単というようになった。

十二単檜扇 表着 打衣 四衣 二衣 一衣

 今度大映の『朱雀門』で若尾文子さんの和の宮が「紫宸殿」及び「江戸城・式典の間」で着用する衣裳が正しい考証によって新しく作られたもの。その費用だけでざっと五十万円といい、重量にして一貫目近く、一旦着てしまうと容易に脱げない代物だけに、この衣裳には身動きつかぬくらいに縛られてしまった若尾ちゃんは、前後三日間の撮影ですっかり肩をこらしてしまったそうである。

 

@ まず菊の御紋を織り出した白綸子の小袖の上に、こき色(処女を示す色、赤と紫との中間色)の長袴を着用。
A その上に薄色からだんだんに濃くなる十二枚の単を重ねるわけだが、一枚一枚襟を合せるのに手間がかかる。

B それを崩れないように、紐でしばりつける。いよいよ動けなくなる。
C その上へ袿を打ち掛け、更に唐衣をうち織る。
D 今度は裳を着用。いうなればロングロングスカートである。

E こうしてやっと完全着用。どんなドライ娘でも、これだけ着ればしとやかになること請合いである。「式典の間」のセット内での立ち姿。

F だが本来なれば、哀愁の色濃き紫宸殿のセットで、おひな様のように座ったアコの宮様はかくも朗らか。右は市川雷蔵の有栖川の宮。

                                                                               

同人の部屋   

                        森 一生

 大映京都『朱雀門』を完成し、次回作品準備中。『朱雀門』は、市川雷蔵、山本富士子、若尾文子の’フレッシュ・メンバーを揃え、幕府と朝廷の政略の犠牲となった悲劇の皇女和の宮を描いて、近来とみに円熟味を増した同監督快心の作品として好評である。

 

 

時代映画 シナリオと撮影所57年3月号