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 大映では、初代社長、菊池寛の十三回忌を記念して、菊池寛の原作のなかから二本を選んで映画化することとなり、現代劇では、“時の氏神”を“新夫婦読本”として船越英二、叶順子の顔合せで映画化したことはすでに読者の皆さんもご存じの通り。

 これはその時代小説の映画化で、数多い菊池寛原作のなかでも、とくにその名の高い同名の小説から、時代劇のベテラン、八尋不ニが脚色したもの。スケールの大きな時代劇を放っている森一生監督がメガホンを握っている。そして、この主人公、松平忠直には、かねてからこの原作の映画化を強く望んでいた市川雷蔵が扮し熱演している。

 ストーリーは、徳川家康の孫と生れ、大阪夏の陣では大阪方の軍師・真田幸村の首を討ち取るという武勲をたてた越前六十七万石の藩主、忠直が、家臣のふともらした一言から人生に対する不信の念を持ち、狂乱におちいる−というもの。そしてこの忠直が、はじめて人の誠を得たのは、六十七万石の大名の地位を去らねばならなかった時だった。

 配役は、この忠直を真実にめざめさせる忠臣・与四郎にここのところたてつづけに大役を与えられている小林勝彦が、またその妻、志津には『鎮花祭』で大映入りした山内敬子が選ばれて初顔合わせをしているほか、丹羽又三郎、林成年、中村鴈治郎に、水谷八重子までが顔を見せる。