◇・・・今さら狸でもないようなものだが、これが案外の面白さ。狸ものでは定評のある木村恵吾が、はじめてのカラー・ワイド狸映画として、存分に夢を盛り上げている。正月作品らしく、賑やかに美しいお伽噺となった。

◇・・・カチカチ山で大火傷をした泥右衛門は、酒を飲みくらっては悪いことばかり企んでいる。娘のお黒は親に似ない純情娘。父親の非道と強欲を嘆いている。ある日親子が間違って迷い込んだのが狸御殿で、二人はたちまち捕えられた。ところが折も折、御殿のきぬた姫は、向こう山の若君狸吉郎とのお見合いを蹴って家出した。姫とお黒は瓜二つ。お黒はさっそく姫に仕立てられてお見合いをさせられる。狸吉郎は一目でお黒が好きになり、毎日のように御殿へ通って来るようになった。喜んだのは親父の泥右衛門で、このままで行けば自分の出世も間違いなしと気が大きい。そこへ夢破れたきぬた姫が帰って来る。

◇・・・姫に戻られては出世もフイだと、泥右衛門は姫を殺そうとする。純情なお黒はびっくりして自分が身代わりになって姫を逃がし、かえって娘を傷つけた泥右衛門は前非を悔いる。姫は狸吉郎と、お黒はかねてから彼女を慕っていた薬売りの栗助とめでたく結ばれて幕。

 次から次へとバックを変えながら、いろいろな民謡を聞かせるお見合いのシーンをはじめ、時代劇ミュージカルの絵本のような画面が美しく展開されるし、テンポも快適で、中だるみがない。舞台以上の装置照明の効果が大いに上がり、見た目もけんらんと美しく、若尾文子もその可憐な美しさが印象的。次々と出て来る歌や民謡もよくアレンジしてあり、カッパの声を合の手に使った薬売りの歌など特に面白い。市川雷蔵の狸吉郎が身についたこなしで楽々とやっているのもいい。こういう映画を外国へ持っていったら案外喜ばれそうだ。【王】

(日刊スポーツ東京版 12/27/59)