赤ちゃん一人舞台
或る日。清涼殿のセットで赤ちゃん登場。これが又可愛らしい赤ちゃんで、皆のマスコット。初めのワンカットは丁度お昼寝の時間だったのか、スヤスヤ寝ていて本番も無事通過。次に寿海さんがだいて雷蔵さんに、「小さい時にそっくりだ」と云うシーンに来ると目をさましてしまった。大人だってセットの暑さにいささかグロッキーなのに赤ちゃんはなおさら、その上着物を着せられるんだからたまらない。スタッフの人に抱かれている時は、それでもいいのだが、寿海さんに抱かれると泣きだす。かわるがわるあやしに出るが、まわりがすべて見慣れない衣裳を着けているので益々大変。森監督がだっこしてあやす。これもだめ、結髪のおばさんが出ていってもだめ。
ここで雷蔵さんが登場、そのあやし方たるや例の大声で
「これ、これ」、この声で赤ちゃんびっくりして雷蔵さんの顔をみて一瞬だまったが、すぐ雷蔵さんの顔をみつめたまま大声で泣き出す。雷蔵さん
「この子、よう昼寝せん子やなあ」だって。
さっき起きたばかりに無理な事、そう都合よくはいきませんよねェ。結局お人形で、撮りました。この時の皆のホッとした表情、この赤ちゃんまさに千両役者という所。
再び?「青海波」を舞う
或る日。連日衣冠束帯の衣裳ばかりではと思っていると、急に衣裳をかえて現れた雷蔵さん、清涼殿東庭のシーンで、紅葉賀の席。川崎敬三さんの頭の中将と「青海波」を舞う、と云っても舞が終って帝よりおほめの言葉を受けるシーンで、舞の方は後日、ロケで行うとか・・・
頭の冠に紅葉の小枝をさし、衣裳は狩衣の様な感じのもので、色彩の美しさは一寸書けませんね。映画でごゆっくりと云う所です。
さて、セット替わりの待ち時間を利用して、寿美花代さんにインタビューをお願いすると、すぐにお逢いして下さいました。
寿美花代さん
「雷蔵さんとは、雑誌のお仕事で一度お逢いしましたが、別にお話しませんでした。雷蔵さんって映画で見て感じるのは、取り澄ました二枚目と思っていましたが、気さくで面白い方です。光源氏ですか?そうねェ、雷蔵さんにぴったりですねェ。この作品は王朝物と云うとテンポがのろいですが、現代的に描かれておりますね。私としても、舞台と映画とは演技も違いますので、一寸心配でしたが、雷蔵さんは、良く指導して下さいますし、固くなれば、面白い話をして気分を楽にして下さいますし、大変勉強になったと思っています」
男役という先入観があったので、どんな方かと思いのほか、大変女らしい、もの静かな方なので一寸おどろきました。
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