雷蔵さんの抱負を聞きましょう

 これだけすべての力を注いでいる作品、その主演光源氏に扮する雷蔵さんは、

 「『源氏物語』は、日本文学の古典としても誰もが知っているもので、光源氏というのは最高の男性だ。紫式部が男性の理想像として描いたんでしょう。それだけに、これを具体的に演技でみせるのは大変なことだ。今までにも長谷川一夫さん、市川海老蔵さん、それに親父の寿海、歌劇の春日野八千代さんと立派な先輩方が、それぞれに個性のある演技をみせておられるだけに、ぼくとしてもファイトが湧きます。」

 「光源氏が、父親の想い者である藤壺という女性に、母親の桐壷の面影を求め近づき、愛情を抱くようになってしまう。この背徳が源氏の心に暗い影を投じながら、彼の絢爛たる女性遍歴が始まるわけだ。母性愛に恵まれない男性として、母親に似た女性に魅かれるのは当然のことだ。そこに満たされなかった光源氏はその面影を求めて、次から次へと女性を遍歴することになる。こういうところに光源氏のものの哀れがあるんでしょう。この点を現代人に共感して貰えるよう、美しいムードの中でやってみたい」

 「色彩的にも、王朝物だけに絢爛たるものになるでしょうし、そのムードをいかしながら、理想の男性としての美しさと、悩ましさを表現してみるつもりだ。舞台にいる時に『舟橋源氏』の頭の中将をやった。今度は若尾ちゃん、玉緒ちゃんらと共に、ぼくがファンでもある宝塚の寿美花代さんが、藤壺と桐壷の二役で出演される。秋の意欲作として精一杯努力してみます」

 さて、ここで『新源氏物語』にちなんで撮影所の中の女性の方二名にご登場願って、雷蔵さんの人となりを語っていただきましょう。

真面目でそれで一寸イタズラな雷蔵さん          庶務課 久我 豈惟子

 撮影所の中で、雷蔵さん程親しみのもてる俳優さんは少ないですネ。大抵の方は、ご挨拶程度ですが、雷蔵さんは、入社以来総務部、経理部などに、チョコチョコと顔をだして、ドタバタと若い人を相手に騒いでみたり、真面目な顔で話し込んだりしておられます。二年程前に東京からオモチャのピストルを仕入れてきて、いたずら小僧よろしく、パッとうたれた時に白いブラウスを着ていたのが、真っ赤なインキで染まってたのには驚きました。マジックインキで、すぐ色がとれるというのが判らないから、こちらが本当にびっくりしているのを見て、雷蔵さんはニヤリニヤリ。その愉しそうな顔は、映画の颯爽とした雷蔵さんからは想像も出来ない一面でもあります。

 古い伝統の歌舞伎の世界に育った雷蔵さんだけに、キチンとした織り目正しさを身につけておられる反面、心底から明るく、愉しい雰囲気をもった方です。わたしたちが、時たま気のついた事を注意しても、フランクな態度で、真面目に聞いて下さるので話し甲斐もあるものというものです。大映の看板スタアでありながらも、少しもおごらず、人の意見に耳を傾けるこの態度には教えられる点が多々あります。