市川雷蔵がこの22日から『歌行燈』(大映、衣笠貞之助監督)の撮影に入っている。これは新派の舞台でもすでにおなじみの鏡花もの。雷蔵は、能の宗家の“ぼんち”になる。彼にとっては初めての本格的な東京作品だけに大変な気の入れよう。毎日、仕舞のけいこに余念がない。

 相手役は山本富士子。相変らずハッとするほどの美しさだ。一挙手一投足に、明治女のそこはかとない色気が漂う。二人とも、京都撮影所で何度か共演した間柄だから、呼吸はぴったり。二人の出会いの場面には、スタッフの間から思わずタメ息がもれるほどの風情があった。

 「俳優ならば誰でも一度はやってみたい“歌行燈”。最善をつくすだけです」とお富士さん。

 「いかにも二枚目然とした役だが、テレずにがんばりゃなけりゃ」と雷蔵。

 情緒ゆたかな雰囲気の中、早くも汗びっしょりの二人である。

 

 

 

 

  

 (週刊明星 60年05月15日号)