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本年度、各種映画コンクールの男優賞を一手にさらい、時代劇俳優には例のない演技派スタアのタイトルを背負って、目覚しい活躍を続ける大映の市川雷蔵は、いま伊藤大輔監督の野心作『ジャン・有馬の襲撃』に出演している。
この映画で雷蔵は初めてのキリシタン大名の役にとりくんで、研究熱心なところを見せているが、同監督とのコンビは昨年の『弁天小僧』で折紙つきのものであるだけに、その張りきりようはまた格別。以下の撮影日記にも、彼らしいファイトがのぞいている。
某月某日 市川雷蔵
『ジャン・有馬の襲撃』は、伊藤大輔監督が十数年来温めておられた企画とか。そんな大切な企画を私に下さるというのだから、私の責任は重大だ。何としても終生の代表作として見せる。作品の狙いはラストの黒船襲撃を最大のヤマ場に、行動性をもった有馬晴信という一人の進歩的な青年大名を浮き彫りにしようというもの。
主人公が立派すぎるほど立派な完全無欠な人間であるだけに、俳優には大へん難しい役どころだ。逆に、そういう人物は人間的に魅力がないということもいえるので、扮装、起居振舞、セリフなど、外観的なものにアクセントをつけて、単調な人間になることを避けなければならない。
もともとこれはこの時代(1609年)のいくつかの史実をもとに、伊藤先生が映画的にアレンジした物語だが、私が演じることになったので実在の人物(三十代)より、うんと若くして二十代前後の、美しいハイカラな人物にかえられたわけだ。従って扮装は、天草四郎のものを中心に、日本画の武者絵のフンイキを狙う。
とにかくお盆映画なのだから、裏でスジを通し、表面では痛快颯爽さを押し出して行くつもりだ。
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