日本史上初の外国船焼打ち事件を題材にした海上スペクタクル時代劇だ。主人公の有馬晴信は、九州島原半島のキリシタン大名で南方貿易をしている多血な青年大名である。慶長十四年ごろというから関ケ原の四、五年あとで、有馬の持ち船がマカオに寄港したしたさいポルトガル船とトラブルを起こし、日本人町は砲撃され、日本船員多数が銃殺された。復讐の念に燃えた晴信は、たまたまポルトガル船が長崎に入港したというので家康の反対を押し切って焼打ちをかけ、ドレイとして船底につながれていた自分の部下を救い出す。
英雄主義におきかえ
シナリオを書くに当って伊藤監督は、本当は非は日本側にあったのだが、それでは焼打ちの行動を裏づける根拠も弱いというので、結局、外国からうけた侮辱に対し、みごと復讐を果たすという英雄主義におきかえた。
今日のセットは、家康の孫娘で晴信を慕う鶴姫(叶順子)が島原の居城日之江城にはるばるやってきたラスト・シーンである。大映東撮で『鍵』に出演している叶が、やりくりして京都へかけつけた大切な一日で、夜行でまた東京へ引き返すといったあわただしさ。
スモーク・暑さ30度
千三百平方メートルの第五ステージには城内のセットが組まれ、雷蔵と叶の出会いの場。カメラの移動が好きで“移動大輔”のアダ名さえある伊藤監督は、移動クレーンを二台も持ちこんで広いステージをフルに使い、カメラを百八十度パンして城内と城内教会堂の全景をとらえるつもりらしい。
早朝の雰囲気を出すため、流動パラフィンを噴霧器でまいて一面朝もやが立ちこめている。スモークが外へ逃げないようエア・コンディションもとめているので、三十度近い暑さである。
建物の陰影で時間経過を表現させようというのでライトの注文もむずかしく、渡辺実、田中徳三といったひとり立ちの監督が助監をつとめ走りまわっている。斜光線をあてて地面にうつる陰影を次第にきつくし、日が上っていく感じを出そうというのだから、その根気は大したものだ。
ライトが一つふえるたびに演技が中断され、露出計ではかってまた続けるといった工程を、なんべんとなくくりかえしてゆく。細分して撮ったフィルムをうまくつなぎ合せれば、一つのシーンが出来上がるわけだが、この間主演者は何時間もライトを当てられっぱなしで、所内見学者の一団が何組も入れ変ってゆく。
“顔”にけげんな叶
雷蔵の衣装はなかなか凝ったもので、ナメシ皮のハカマに銀の紋をおき、天草四郎の絵草紙から前髪の扮装を考え出した。相手役の叶順子は『日蓮と蒙古大来襲』び」つぐ二度目の時代劇で雷蔵とは初顔合わせ、王朝風の天女マユゲに自分の顔じゃにみたいと、けげんそうな顔だった。
雷蔵との初顔合わせの叶順子。以前から雷蔵さんのファンなんですものと、彼女しごく上きげん。 |
|