伊藤大輔先生が一年半ぶりでメガホンを取った『弁天小僧』を見たが、いろんな点でおもしろかった。先生の映画歴よりまだ十年も若い僕だから、過去の名作は見ていないけれど、シナリオを読んだり、話を聞いたりして、知っていることもいくつかある。
この映画のクライマックスで、弁天小僧が捕方にかこまれて文字通りの袋の鼠になってしまうところでは、御用提灯の洪水である。道も路地も埋まってしまう。それが俯瞰撮影でとられていて、提灯の火だけが右に左に走っていた。いくら昔に使われた手法であっても、現在の映画観客の大半はそれを見ていないし、カラーワイドになっているから、壮観な映画だった。
それともう一つおもしろかったのは、強姦場面である。強姦場面のない時代劇は皆無といっていいくらい、時代劇の定石になっている。この場合、たいていは、悪役が主人公の恋人か何かを襲い、主人公がそれを助ける。悪役ははじめからしまいまで悪者だから、女を手ごめにしようとしたって、こっちはそれほど何も感じない。
『弁天小僧』では、雷蔵の弁天小僧が助けてきた町娘の青山京子に興味を持って、手ごめにするシーンがある。それが、ひつこいというのか、イヤらしいというのか、あれだけいやらしく女をいじめるのを見たことがない。時代劇おきまりの強姦シーンもあれぐらいの迫力があればいいのにとその時に思った。
この映画は、本社のおえら方のうけもよく、今後は次々と伊藤先生の監督作品が出るという。還暦を迎えられた先生だが、まだまだ仕事をしていただきたいものです。(谷口)
(時代映画58年12月号「編集後記」より) |