『炎上』『弁天小僧』の 市川雷蔵(大映)
ブルーリボン賞の話題の中心がやはり、こうした主演賞だけに候補も多かった。市川雷蔵を初めとして、小林桂樹、長門裕之、高橋貞二、三船敏郎、木村功、中村錦之助、伴淳三郎、フランキー堺、佐分利信、高松英郎など新旧スター、時代劇、現代劇入り乱れての乱立ぶりだったが、最初の投票で市川15、小林11、長門7、高橋3というふうに票がわかれてしまった。
小林を推すものは『裸の大将』での彼の山下清役は、彼が独自に作り上げたもので、決して模倣ではない点を強調し、その孤独的な演技を高く評価すれば、一方の市川組は“孤独な演技”はむしろ雷蔵の『炎上』に強く表われていると主張してゆずらず、長門組もまた日活の裕次郎第一主義の中にありながら一作々々コンスタントな独自のうまみを発揮している長門裕之を押すといった有様だった。
こうして第二次投票の結果は市川20、小林13、長門8という票数で、市川、小林の対立となったわけだ。
ここで市川組の一人は小林の山下清はたしかにうまいが、彼の場合、問題になるのはそれ一作であること。さらに四十枚近いスチールを検討した結果、瞬間的な演技では、決して小林が精薄児になり切っていないとの主張もあり、それに対して雷蔵は『炎上』や『弁天小僧』だけでなく『忠臣蔵』『日蓮と蒙古大襲来』『伊賀の水月』など、そのいずれをとっても演技のうまさを誇れるという点、しかも時代劇畑の彼が、現代劇のジャンルでもあれほどの演技を示したという点を強調して、第三次の決戦投票にもちこみ26対15で初の時代劇スターの主演賞受賞が決定したものだ。
『炎上』『弁天小僧』の 宮川一夫(大映)
今年度までは音楽賞のみを分離して、他は映画技術に関するものはすべて技術賞に入れられていたが、今年度はじめて撮影賞が設定されたわけだ。
候補者としては『裸の太陽』『季節風の彼方に』(東映)の宮島義勇、『炎上』『弁天小僧』(大映)の宮川一夫、『隠し砦の三悪人』(東宝)の山崎市雄、『張込み』(松竹)の井上晴二、『亡霊怪猫屋敷』(新東宝)の西本正、『果てしなき欲望』(日活)の姫田真佐久、『夜の鼓』(現代ぷろ)の中尾駿一郎の七名がのぼったが、第一次投票の結果、宮川13、宮島7とほとんどの票を二分して二人が有力な対抗馬となった。
この二人は共に撮影技術者としてはベテランともいえ、好対照ではあったが、特に宮川のこの二本が、それぞれ違った作品に持味を生かし特に『炎上』で日本海につき出したガケの上の父子の撮影に独特の切れ味を示したものとして、16対12で受賞が決定したものだった。
宮川の場合は、昭和二十七年第三回ブルーリボン賞の技術賞受賞についで、二度目の栄冠である。
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