【大阪発】 大映京都では中里介山作の『大菩薩峠』(三隅研次監督)の撮影を開始したが、主役机竜之助に扮する市川雷蔵が、大阪新歌舞伎座出演での過労がようやくいえて、13日セットイン。撮影はいよいよ高潮してきた。

快調 『大菩薩峠』


 『大菩薩峠』は剣の凄惚と男女の愛欲の激しさを、雄大なスケールのうちに描こうとするもので、過去主人公の竜之助の役は、舞台では辰巳柳太郎、映画では大河内伝次郎、片岡千恵蔵らが演じて好評をはくしたが、今度は原作に近い年齢の雷蔵が演ずるところに深い真味がある。

 雷蔵初のセットインのシーンは、竜之助道場の門弟が持ってきた御嶽山の試合組状を受け取った竜之助が、これを見て宇津木文之丞との組み合わせを知る、といったくだりだ。白の"放れ駒"の紋を鮮やかに染め抜いた黒の着流し姿の雷蔵の竜之助は、辰巳、大河内、千恵蔵とは違った殺気が若さにあふれ、それに舞台出演の疲労から約4キロやせて、ほおが落ちているあたりはニヒルな竜之助により近い表情にしていた。

 メガホンをとる三隅い監督は雷蔵の竜之助にすっかりごきげんのてい。「従来の竜之助は剣技だけを強調したものだったが、今度は雷蔵君の年齢と原作との年齢がほぼ近いので、剣は強いが人間的には未完成という原作の狙いを忠実に描いていきたい」と語り、竜之助役は雷蔵をおいてほかにないといったほれ込みよう。

 一方、竜之助にふんする雷蔵は「俳優なら一度はやってみたいと思う役が竜之助だと思う。あらためて原作を読み直すと、未完成の人間の未熟さと苦悩が描かれているので、これを現代人にアピールするように演じてみたい」と語った。

 なおこの映画は三部作で作られ、キャストは雷蔵の竜之助のほか、本郷功次郎(宇津木兵馬)、中村玉緒(お浜、お豊の二役)、山本富士子(お松)となっている。(日スポ東京 09/14/60)