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天然色というものはメンドウなものだ。黒白映画ではさして気にしなかったチョットした事まで神経質なまでに気をつかう。その面白いところを二つ、三つご紹介。
(1)大道具さんが、ステージの前で一生ケンメイ土をふるっている。一体何をするのかしらと思って、訊いてみたら、セットの土の色がマチマチにならないよう、この土に一定したのだという。つまり、セットが組めたら、この土を持っていって地面に敷くわけである。こんなことまでするとは、皆さんもお考えにならなかった事でしょう。
(2)衣裳も、新しいもの、古いものを色で出さなければならないから、苦心する。しかし、最初から古い布で仕立てるなんてことは、やりにくくて仕方がないから、新しく作ったものはみなまっサラだ。で、これを、また場面に合うように傷めたり汚したりして古びたものにするのである。
ヒョコッと衣裳部をのぞいたりすると、市川雷蔵がマネージャーの森本さんと一緒に、ステテコ一枚で一生ケンメイ、自分の衣裳を、ブラシでこすったり、襟ものとへ油をぬって汚したり、床でこすったりしている姿を見かけることがある。衣裳を汚さないよう気をつけるのも大変だが、新しいのを汚すというのも、サテとなるとなかなか難しいものである。
時には、俳優さんに着せてしまってから、頭に袋かぶってもらって、コンプレッサーで泥絵具を吹きかけ、衣裳を汚すこともある。膝や肘の汚れなど、着てからでないと見当がつかないからである。こうなると、スターと雖も小道具と同じである。正に難行苦行。
(3)色というものは、強いライトや、太陽光線の下では、だんだんと色がサメてゆく。だから、スタッフは常にそれに気をつけていて、色がサメたなと思えば、作りかえなければならない。刀の柄糸をまきかえたり、同じ衣裳を二通り作ったり等々。これをウッカリしていると、フィルムをつないだときに、色がつながらなくなってしまう。
だから、オープン撮影の時なども、本番になる迄は、大事な小道具などは出さない。時子が、泉のところで染色を洗っているところなども、糸の色が黄や紫だから、すぐあせてしまうので、本番のときに初めて、籠に入れたり、竿に干したりしたのである。泉のそばの柳の木も本当は幹だけで、本番の時に、水につけてあった枝を大急ぎで持って来て、釘でうちつけ撮影した。そうしないと、今年のような猛暑では、忽ちしおれてしまう。木の葉など、黒白では枯れていても平気だったが、カラーではいつも緑色をしてなきゃならない。わざわざ泥絵具で色をつけるのである。
一番困るのはスターの顔の色で、陽やけすると色が変るから、海水浴などは勿論御法度。表に出るときは本当に外は必ず傘をさし、日中は禁足。そんなにしていても、一寸でも色がやけたりすると、早速東京の色彩研究所へ飛んでいって、皮膚の色をしらべてもらって帰ってくる。そして、それに合せてメーキャップの色を考える。といった具合である。厄介なことだ。
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