看ばんの二大スタア
本誌: なんか二人が正面きって出演して演技を競った「薄桜記」なんか、やはり二人の柄がちゃんと出ていてよかったですね。
宇野: やはりなんといっても雷蔵のほうがいい役だね。
日高: そうそう、原作では勝のほうが面白い役なんですよね、ほんとうならば・・・。ところが丹下典膳が雷蔵で安兵衛が勝でしょう。山中安兵衛のほうが義士外伝みたいなものがあるのですから、面白い役なんだけれども、けっきょくあの場合の勝の役というのは、狂言回しにすぎないものになっちゃうんですよね。それで勝にすれば、あれでもって雷蔵と五分に組んでやろうと思ったところが、だいぶ本が直ったらしいけれどもそれにしても雷蔵のほうが上になって、これは本人としてはあまり面白くなさそうだったけれどもね。
深見: 勝だってよかったよ。勝の演技を見ておって、ものすごく器用な役者だと思うんですよ。器用すぎて・・・雷蔵は小っちゃいくせに大きいような雰囲気をもっているけれども、勝にはそういう大きさがないんだ。
日高: とにかく器用貧乏なんだよ、勝新太郎というのは・・・軽く端唄の一つをうなっているような感じでしょう。
宇野: 歌はうまい(笑)
日高: ついつい器用貧乏だから、人のよさでまえに出るから小さく見えるけれども、けっして下手じゃないですよ。
深見: あいつはいろいろな役につけるね、いい役者だと思うよ。雷蔵はレパートリーが狭いと思うんだ、時代劇の役者としては・・・。「ぼんち」とか「炎上」なんか、彼の努力もあるんだろうけれども、当ったからね、運がよかったということも言えるだろうけれどもね。
日高: やはり雷蔵の場合は侍だよね。せいぜい侍か、落ちても町人ですよね。ところが勝の場合だったら、浪人ものだっていけるし、やくざはいけるし、三尺ものもいけるでしょう。侍もいけるし、ぜんぶいけますよね。時代劇ぜんぶ。
深見: 雷蔵の場合は狭いよね、股旅やっても颯爽としないものね。ただ勝新太郎はおっちょこちょいだよね、感じが。あまり重い役はできないね。「・・・三度笠」みたいなものはいいだろうね、いま雷蔵がやっているけれども・・・。
宇野: 勝が去年やったろう、「情炎」か、あれはやはりそういう意味の悪さが出たんだな、あまり成功とは言えなかったな。いちおうやっていたことはやっていたけれどもね。
本誌: 当分、雷蔵、勝というのはやはりセンスでなんか競うと思うんだけれども・・・。
深見: 雷蔵、勝の先輩に長谷川一夫という大先輩がいるでしょう、だから二人ともやりやすいんですよ。長谷川さんがうまい具合に利用してしていけば両立できるよ、喧嘩するということもないし。
日高: しかし差がついたからね、雷蔵とは・・・。
宇野: 断層が大きすぎたね。
日高: ようやく断層を勝のほうが埋めていってる感じでしょう。
深見: うまくいくと思うな。
日高: ところが、そのかわり長谷川さんというものが、次第に地味になってきたでしょう。だから、どうしても会社としても雷蔵にやってもらわなければ困るわけだ。勝もあがるだろうけれども、やはり雷蔵のほうがね。そのあいだに本郷功次郎がどういうふうに割り込んでいくか、あれ現代劇といっても時代劇にも出るでしょう。
深見: やらすけれども、いわゆる現代劇スタアとして売り出す方針だからね。時代劇は雷蔵と勝がいるけれども、こっちはだれもいないもの。菅原、根上もだめだし・・・。
日高: 本郷はやはり看板だよね。大作「朝顔日記」なんか若尾と出てるし、「大江山・・・」でも金時で本郷がカンでるわけだ。そうすると彼はどっちも・・・。
宇野: 今度、丹羽又三郎がいいじゃないの、「幽霊小判」に出た。いままで新東宝にいたんだけれどもね。中村豊君より丹羽又三郎のほうがよさそうだ。
日高: でも感じがちょっと小さいね、あれも。
宇野: まあいろいろいるけれども若い人が、中村豊にしてもそれにしても。だけど彼らがいかにして勝、雷蔵に迫るかということが、一つの課題だよね。会社もそういうふうに向けていかなければいけないわけだけれどもね。(別冊近代映画「大江山酒天童子」特集号60年5月30日発行より)