恭子さんとの一問一答
インタビューに照れる恭子さん
ここで、話題のひと遠田恭子さんの横顔を、都内某所でひそかに行なったインタビューから紹介してみよう。
お母さんの光子さんにつきそわれて約束の場所に恭子さんが姿を見せたのは定刻二分前。それでも「おそくなりまして!」と記者にていねいに頭を下げる恭子さんは、いかにも良家の子女といった気品のただようおとなしいお嬢さん。
しきりにはにかんでいる恭子さんのかたわらからお母さんが「この子は、こんなことがはじめてなものですから、さっきからインタビューされるなんでいやだ、いやだ、とだだをこねていたんですよ」と、とりなすようにことばをそえる。
恭子さんの気持ちがどうやら落ち着いたところで、一問一答をこころみる。
問 学校でのご専攻は
答 日本女子大学の家庭学部で児童科を専攻しております。
問 児童科といいますと?
答 子どもが好きなものですから、自分としては、幼稚園の先生になろうと思っていたんですが・・・・
問 雷蔵さんとの婚約でそのご計画はくずれたわけですが、将来お家で幼稚園をひらくということは考えられませんか?
答 そうですね。(笑いながらうつむく)
問 けれど芸能人はおきらいだったというあなたが、雷蔵さんを夫にと決心されたのは・・・・。
答 嘉男さん(雷蔵の本名)の、俳優らしくないざっくばらんな飾り気のない人柄が・・・・(とうつむく)
問 あなたはいま嘉男さんと呼ばれましたが、雷蔵さんはあなたを?
答 (恥ずかしそうに)恭子さんと呼んでいます。
問 雷蔵さんがはじめてプロポーズしたのは?
答 (ますます恥ずかしそうに)あのう、ことしの七月上旬ごろ、はじめ京都から家に電話をかけてこられて大へん重大なお話をしたいので、明日お宅におうかがいするとおっしゃるんです。なんのお話かと思っていたら、翌日の一番機で東京へお着きになり、すぐに家へおいでになりました。そして・・・・(とあとはほとんど聞きとれないほど声が小さくなる)
問 プロポーズなさったわけですね。ところで、旦那さまとしての雷蔵さんへのご希望は?
答 私、まだ大学の三年なものですから、できることならあと一年学校へ通って卒業だけはしたいと思っておりますが・・・・。それと、こんなことをいうとしかられるかもしれませんがもしできることなら、嘉男さんが俳優でないと・・・・早くやめられるといいんですけど・・・・(と冗談をいって笑う)
問 ご趣味は?
答 趣味というほどのものではございませんが、自動車の運転とお茶(茶道裏流)は好きです。ですから、私としてはお茶室だけはほしいと思っておりますが・・・・。
問 雷蔵さんの映画はごらんになったことはありますか?そして、スクリーンでの雷蔵さんの印象は?
答 偶然なんですが、嘉男さんがはじめて映画に出演された“花の白虎隊”というのを、祖母に連れられて見たという記憶があります。でも、映画を見るときはいつも洋画を見てしまうので、あとの作品は二、三本見た程度です。スクリーンでは“とてもきれいなかた”という印象を受けました。
問 スポーツはおやりになりましたか?
答 高校時代にテニスを少しやりましたけど大学ではスポーツは全然やっておりません。でも、最近スキーをやり始めて、とても面白いと思ったのですが、家で“ケガをするといけないからおやめなさい”といわれますので、ことしもどうやら行けそうもありません。
問 たしか雷蔵さんはスポーツは得意でなかったはずですね。
答 でも、嘉男さん水泳だけは得意だと自慢してらしたけど。
問 お料理は?
答 習って自分でも得意なつもりでいるのはフランス料理です。日本料理は目下勉強中なんです。
問 お好きな色は?
答 白とか黒とかはっきりした色が好きです。花の色では紫が好きですが。
問 最後に、芸能人の奥さんになられるにあたっての自信は?
答 派手な生活のようなので、はじめはとても私にはついてゆけそうもないという気はしたんですが、嘉男さんの奥さんになる以上、一生懸命に芸能界のことを勉強して、いい奥さんになれるように努力するつもりです。さいわい嘉男さんには、俳優さんの派手さというものが全然感じられないので、どうやら私でもついてゆけそうだと思っております。
こうして、約一時間にわたった恭子さんとのインタビューを終えると、彼女はいかにも救われたというようにホッとタメ息をもらす。こんなところも、いかにも世間のアカに全然そまっていない、お嬢さんらしくてかわいらしい恭子さんだ。
そして別れしなに、
「この雑誌が出ると、きっとお友だちがびっくりなさるわ。私と仲のいい人なら、私の芸能人ぎらいをみんな知っているし、嘉男さんと私とが結婚するなんて考えてもいらっしゃらなかったでしょうから・・・・。ですから、私、お友だちたちにこのことをかくしているのがとても心苦しかったんです。とりわけ、ハワイの木村洋子さんには・・・・」
とお友だちのことをしきりに気にかけていた。こうして、時代劇の人気スター市川雷蔵は、自分自身の意向で、自分自身がかねて描いていた理想の女性像ぴったりという、やさしいお嬢さん遠田恭子さんとめでたく結ばれることになったのだ・・・・。
この二人のおめでたとみんなで祝福したいものだ。(週刊平凡1962年1月10日号)