私から見た市川雷蔵

私から見た市川雷蔵と言う記事をと、前から会の方より言われておりましたが、主人たる人の事を書くという事は中々書けぬものである。あまりいい事も書けず、まして悪くは尚の事書けずにおりましたが、今度はたってとの事ゆえペンを取りました。

今迄よく新聞、雑誌の記事に掲っている通り役者らしくない役者、それが本当の市川雷蔵と言う人である。何の商売でも同じながら、特に芸能人は世間の人に上手口を言うのが世渡りの様に思われているが、それを一切言えないのが主人の欠点であるが、一方考えればこれが此の人として一番いい点でもある。口の悪い事は大映京都撮影所第一と言われていますが、それがいくら毒舌をついても人から悪くとられず、むしろ親しみやすくなる実にいい生れの人と思っております。

又よく麻雀狂の様に言われていますが、成る程好きである。然し明日は何時セット入りとわかれば必ず自分に必要なだけの休む時間は寝る様にして、それ以外の時間は決して遊ばない。そして床に入る前には明日の仕事の台詞、演技の勉強をしないと床に入らぬという熱心さ、年中そばをはなれぬ私も感心しています。

よく見学に来られたり、ロケ先にてファンの方に知らぬ顔をして行ったとか、又すましているとか言われるが、それは近視のためよくわからぬのです。ファンの方からは雷蔵さん一人であるが、本人は何千何万のファンの方一々顔がわからぬのは当然である。それを知った様な顔も出来ぬ無理もない事と思っています。今年は映画生活足かけ三年、今迄は新人と言う活字もあったがもう三年生ともなれば、今年あたりが一番当りのきつい年である。その点本人は一番よく知っていられるので私も安心して又楽しみに今年は仕事の出来る年と思っています。内輪の者の言葉としておかしい言葉であるが実にいい人である。私も一生そばにいて共に勉強さして頂く覚悟である。とりとめのない文になってしまったが、かずある話もこれでお終いである。(昭和31年、可美なり会誌より)