陰の人たちがみた横顔

「やさしい若旦那」 女中さん 松本文恵

「まあ、きれいやなア!」 

私が、はじめて若旦那様(雷蔵さんのこと)にお会いして感じたことは、このことでした。映画スタアですからハンサムなことは、当り前のことかも知れませんが、実際、目の前でお会いすると、まずこう心の中で叫ばずにはいられませんでした。

私が、市川家へお世話になるようになったのは、女学校のお友達のお父さんが、大映の撮影所で若旦那様専属の床山さん(かつら屋)でしたので、その方のお世話で入った次第です。去年六月のことです。

若旦那様の性格はとても男らしくサッパリしています。人に対してハッキリとものを云われるし、お世辞などあまり云われないので、初対面の人には、ちょっととっつきにくいと思われるかもしれませんが、本当はとてもいい方です。

それからお食事については、そううるさくはありませんが、毎日、美容食を召上がられます。美容食というのは、ほうれん草と大根おろし、それにリンゴは絶対欠かされません。

え?失敗談ですか?一度湯どうふを作った時、煮すぎてしまってとうふが固くなり、ちょっとお叱言をいただきました。フフフ・・・。でも、若旦那様は、私達にもやさしくして下さいます。

私は目が悪いので時々目のことを聞かれては、いたわって下さいます。こんな理解深い若旦那様のもとで働けることは、とても幸せです。本当に嬉しいことです。私は、いつまでも若旦那様のために少しでもお役にたったらと、毎日念願しております。(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)