不世出の輝き 市川雷蔵
役者の華と演技力を備え
雷ちゃんほど没後何年経っても人気が衰えず、さらに新しいファン層を広げ続ける俳優もいないでしょう。華のごとく美しい若侍か、虚無的で眼光鋭い剣豪か、現代劇の苦悩する青年か。ファンそれぞれが一番好きな姿を抱き、心に灯をともし続けているようです。
大映に在籍した十五年間、彼は百五十余本の映画に主演しました。私はうち四十一本を担当、俳優では雷ちゃんとのコンビが最も多いのです。
出会いはデビュー年の1954年『美男剣法』が最初です。『鬼斬り若様』『花の兄弟』『朱雀門』など白塗り美男の役を経て、社の猛反対を自ら説得して出演した『炎上』(58年)へ。国宝に放火する吃音の僧りょ役を演じてスターの座を不動にしました。役者の華と演技力を兼ね備えた稀有な若者とは思っていたが、私にとっても彼のすごさを再認識させられた衝撃的な作品です。
◆・・・硬軟自在に演じる
手応えを得た雷蔵さんが同じ市川崑監督と組んみ、出身に悩む青年役に挑んだ島崎藤村原作の『破戒』(62年)は、美術的にも意欲作です。長野県飯田の雁木作りの町並みは大映京都のオープンセット。道路脇や屋根にどっさり積もった雪は、土台を綿で覆って糊を吹き付け、さらに塩を降らせてあります。
この頃の『弁天小僧』(58年)『切られ与三郎』(60年)は、歌舞伎に造けいが深い伊藤大輔監督の演出と、武智歌舞伎出身で見せ所を熟知する雷蔵さんの演技が見事に溶け合った名作で、私も雷蔵さんもお気に入りの作品になりました。
代表作『眠狂四郎』は63年から計12本。雷ちゃんが最も親しかった池広一夫監督と私が組んだ第四作『眠狂四郎女妖剣』(64年)のヒットで本格的なシリーズ化が決まったのです。
眠狂四郎には独特の画調がある。どこか異世界のような退廃的で印象画的な雰囲気。セットはシンプルながら「際限なく土塀が続く」「闇に杉が林立」など誇張されています。衣裳も黒に銀を混ぜたり、相手方には錆朱を着せる凝った色遣いです。勝新太郎さんの人気シリーズ『座頭市』が太陽のイメージなら、狂四郎は月をイメージさせる艶っぽい映像美です。