主演俳優の貸し借りをおこなわない、という邦画五社長の申し合わせは、各方面に多大の反響を呼び、その後、これに東宝が猛反対するなど、各社によって社長申し合わせがまちまちなため、果たして他社出演を禁止されるスターはだれだれか注目されていたが、このほど開かれた五社製作担当重役による製作部会で、各社から俳優名簿が提出された。

 この名簿は極秘となっているが、松竹十八人、東宝(東京映画、宝塚を含む)三十二人、大映十八人、東映十六人、日活二十九人、計百十三人(五月十日現在)。これによると貸し出し禁止のスターは、東宝では三船敏郎ただひとり、反対に日活では平田大三郎などワキ役陣までワク内にいれる、という徹底的な食い違いぶりを見せており、大映に問題の若尾、山本が含まれているかと思えば、松竹は伴淳三郎、高千穂ひづる、山下洵二、嵯峨三智子の四人の貸し出しを認めるといったぐあいで、大作主義、テレビ攻勢などの波紋は意外に複雑な様相を呈している、

このリストは、五社それぞれの社内事情をよくあらわしており、両極端をいくのが東宝と日活だ。東宝は最初から社長申し合わせに反対であったので、いちおう三十二人におよぶ主演級スターをあげながらも、他社出演禁止スターは三船敏郎ひとりにしぼる徹底ぶり。三船は国内では他社出演を禁止するかわり、海外映画に出演させるという条件つきだ。東宝がこのような方針をとったのは、大作主義であるため、東宝一社でスター契約本数すべてを消化できないためだ。

 一方、日活は、裕次郎、旭、錠はもとより、高橋秀樹、浜田光夫らの売り出しスター、はては平田大三郎、杉山俊夫ら、どうみても主演級とは認められぬものまで登録している。これはもともと俳優の貸し借りはいっさい行なわれないという根本方針によるものだ。

 以上の両社の中間をいくのが東映だ。他社の顔ぶれと比較すれば、まだまだこのリストに加わってもおかしくないスターがいる。たとえば高田浩吉、近衛十四郎、里見浩太朗、東千代之介、水木襄、三国連太郎といった人たちだが、これをあえてはずしたところに、東宝と似て持てるものの悩みを如実に示しているようだ。すなわち東映は、昨年ニュー東映を発足させるなど、極端な量産主義に走ったため、多くのスターをかかえこんだものの、ことしから戦線を縮小、製作本数が激減したので、他社出演せねば俳優たちの不満をおさえられぬ段階まできているのだ。

 松竹は、伴淳ら四人に他社出演を認めているが、これは現在の手薄な俳優陣では、大作キャストを組む場合、支障をきたすので、バーター要員をつくっておこうという含みがあるとみられる。

 五社中、いちばん問題をかかえているのが大映である。というのは、予想どおり、山本富士子、若尾文子の二人が含まれているからだ。山本富士子は、新契約のさい、他社出演二本が認められており、東京映画『憂愁平野』出演がきまっているので、主演俳優リストに登録され、他社出演禁止となれば、相当の紛糾が予想されそうだ。また若尾文子も七月いっぱいで契約が切れるが、他社出演を切望、東京映画『忍ぶ川』出演問題もいまだ尾をひいているので、契約は難航することになろう。

(05/31/62日刊スポーツ・東京版)