立派な式典だったアカデミー授賞式

アメリカみやげのシナトラ・ハットをこわきに帰国した市川雷蔵夫妻

−アカデミー授賞式にも出席されたそうですが?

 「日本のものと比較するというのもなんやけど、とにかく、ショーとしても式典としても本当に立派なものでした。通訳なしで二人で行ったので、ボブ・ホープの司会の面白さなんていうのは、ようわからへんやったけど、来会者がみんなタキシード、イブニングに着飾って、整然と発表を待っている姿なんていうのは、実にいいものですね。それに、ジャーナリストやカメラマンも、ちゃんと、外の取材をする人は入口だけ、会場の取材をする人は会場だけ、発表のあとでインタビューする人は、ちゃんと決められた控え室で待っているといった秩序正しさで、日本のように、わっとステージにカメラマンがたかったり、あっち、こっちから質問の矢が飛び出したりというような混乱状態にならないのも、うらやましく思いましたねえ。もっとも、日本のジャーナリストが悪いっていうんじゃなく、アメリカでは常識になっているようなことが、こっちで行なわれていないというだけのことなんですがね。でも、冷静に考えてみて、やっぱり向こうの状態の方が好ましいので、できれば向こうの状態に近づくようにしたいものだと思いました。もっとも日本の場合は人出がたりないとか、いろいろ原因もあるのでしょうけど・・・」

とジャーナリストへの皮肉もちょっぴり。

−ブロードウェーではショーや芝居も見ましたか?

 「『マイ・フェア・レディ』と『ノーストリング』というのを見ました。役者の名前はようおぼえてへんけど、面白く見ました。それに、アメリカのショーや芝居は、ちゃんと、八時半に始まって十一時少しすぎたごろ終わるんで、食事の時間とだぶらないっていうところが実にいいと思いました。日本の芝居は、芝居の合い間にガヤガヤ食事したり、お茶を飲んだりしますけど、向こうじゃ時間だから食事もすんだ後だし、皆静かに芝居を見ているんだなあ。これなんか、すぐにでも取り入れていい風習だと思うなあ。日本じゃ芝居を見にくるんだか、食事をしにくるんだかわからない人がいますからねぇ・・・」

と観客へも一言。雷蔵もこんどのアメリカ旅行では教えられること、考えさせられることがかなり多かったようだ。