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-出演作品のすべてを語る-
昭和35(1960)年
さて三十五年。まず正月らしいミュージカル『初春狸御殿』で今年が始まりました。これは本当に、理屈抜きで楽しい映画でした。でも、もう少し風刺が利いていれば、もっとよかったのにとも思いますが、正月作品だからこれで良いんでしょう。『二人の武蔵』これは、映画というものは素材をどうにでも出来るという見本作品。長谷川さんと阿蘇に行って撮った決斗場面がいいというけど、ロケがよかったというだけでは、どうも困ると思いますね。『濡れ髪喧嘩旅』これは濡れ髪シリーズ三作の中では一番低調ではなかったかと思う。
『ぼんち』現代劇出演二本目の作品。原作は山崎豊子さんの評判小説で、いろいろな問題を投げかけた作品だが、シナリオでも喜久治が描けていなかったと思うし、市川監督も喜久治を中心にしていなかった。原作の面白み、ねちっこさがなかったし、僕自身も、また市川監督としても失敗作ではなかったかと思う。興行的にはヒットしたが、これは、原作のネームバリューが大きくプラスしていたんでしょう。
『大江山酒天童子』これもオールスターものだが、描き方、すじに無理があったと思う。僕は頼光で長谷川先生と対立する役なので、貫禄を出そうと思ったが、『ぼんち』づかれで、シャープには行かなかった。『続次郎長富士』これもオールスター。これは、青年代官の役で出て、僕としてはいろいろ考えてやったつもりなのに、写真になって見ると、貫禄もないし、さっそうとしたところがないのでがっかりしてしまった。自分の考えていたのと、写ったのが、どうしてかみ合わなかったのか、目下研究中です。
『歌行燈』これは、衣笠先生の監督で、泉鏡花原作の作品に出るのも、また、いわゆる芸道ものに出たのも始めてだったが、抵抗を感じないで、スムースに乗れた作品だった。この作品は、明治ものだけに、心理的なものより、ムード的演技というものをやったわけです。『切られ与三郎』これは『弁天小僧』に続いて、よく皆に知られている、歌舞伎ものの映画化ですが、この辺りから、体の調子が悪くて、申訳ないんですが最善の努力を尽くしたとは言えないんです。この与三郎役で、陰影のある、二枚目を出そうと努力したんですが、うまく行かなかったようです。
『安珍と清姫』これは島耕二監督と始めてつき合った作品で、音楽、色彩も東洋的なムードに統一し、この雰囲気と視覚を基調にした作品でした。安珍と清姫の二人に焦点をおいた作品で、外国の人にもわからせるという狙いもあったわけです。このような作品は、時代劇のジャンルを拡めるためにも意義があると思うわけですが、ただ、シナリオにも、撮影にも、もっと日数をかけてやりたかった作品です。これで、私の全出演作品七十三本について駈け足ながら語ったわけです。
今は、中里介山原作、衣笠貞之助脚本、三隅研次監督で『大菩薩峠』に入ってます。この机竜之助という主人公は、剣にかけてはならぶものがないが、人間的には全くかけたところの多い人間です。このかけた面を、演ずる俳優が、いかようにも解釈して、それぞれの机竜之助が出来るというところに魅力がある。僕のやる竜之助は、剣以外では、未完成な人間だということを強調したい。もう一つ強調したいのは、竜之助は、剣をもった時は、一つの境地に入った人間であるが、そうでない時は、かけた人間である。この二つの竜之助をはっきり描き分けたいと考えている。
この『大菩薩峠』が終わると、菊池寛原作の『忠直卿行状記』があります。これは映画入りしたときからやりたいと思っていた作品ですし、暗い宿命をもった忠直をどう演ずるか今から考えているわけです。とにかく、一歩一歩、また一歩と、俳優としての精進を、これからも続ける決心です。
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