地味なスタイリスト 松村二郎(洋服屋)
とかく映画スターといえば、競争心が強くて新しい流行スタイルの服を作られるものですが、その点、雷蔵さんは人のものを真似られず、独自の好みを持っておられます。
私も度々おしえられる場合もあります。自分に合うスタイルをちゃんと心得ていて、いわば自分の好みに合った流行を作られてるといった感じです。大体渋好みで色合としては、グレー系の渋い落ちついた感じの、紺系又は明るい物を好まれます。ですから、シャツなんかは派手なものを着られても、洋服の方は一般に色合もスタイルも落ちついた感じのものが多いといえます。
私が雷蔵さんの洋服を作り始めてからもう四年位になりますが、その間に五十着も注文していただいたかと思います。気に入ったら一度に二着でも三着でも作られますが、大体が他に道楽といったもののない人ですから服を作るというのも雷蔵さんの場合、一種の趣味といえるかも知れません。以前はそうでもなかったのですが、最近は顔の色も白くなられ、どんな服を着られてもよく似合うようになられました。
出来上りについては、あまり何も言われないので、私も信用されているのだろうと喜んでいますが、それだけに、おすすめする生地についても、相当に人知れぬ神経を使っています。又、映画雑誌などに雷蔵さんの写真を見ると一番に注意するのは服の具合です。
テレビに出られる時などもやはり気になるので、仕事を中断しても、何をおいてもまず、テレビにかじりついてしまいます。そしてもしどこか悪い所が気がつけば、すぐ直させてもらう様にしています。
一番有難い事は、無理を言われない事で、たとえば年末など方々から年内に仕上げてくれという注文が殺到して、テンヤワンヤになっている時など、来春に廻してもいいから、と言って下さるので本当に助かります。そう言ったこまかい事にもよく気のつく、年に似合わずよく出来た方だとつくづく感心している次第です。
(註:松村二郎さんは雷蔵さんがいつも注文する洋服屋さんです。59年9月発行「よ志哉」13号より)