日本映画戦後黄金時代第15巻・大映の主役

 当時のカレンダーをめくってみると、男優では御大長谷川一夫を軸に市川雷蔵、勝新太郎、女優では京マチ子、山本富士子、若尾文子の存在が大きく目にとまる。この六大スターは何といっても大映のイメージ・シンボルにちがいない。

気品ある“孤愁”の二枚目 

市川雷蔵

 端正な容姿のなかからにじみ出る男の色気とニヒルなムードがファンを魅了した。眠狂四郎がはまり役。市川寿海の養子。29年に大映に入り、44年7月、37才でこの世を去るまでの15年間、出演本数は153本。あまりに早い死であった。

貴公子スター・市川雷蔵

 京都の貴公子スター、市川雷蔵のことにも触れなければならない。『花の白虎隊』でデビューして以来、153本の作品を残している。誰からも好意をもたれた珍しい人であった。歌舞伎役者としてのキャリアが必ずしも生かされたわけではないが、養父、市川寿海の薫陶を受けていただけに、この人の演技には格調があった。芝居をキメル勘どころのようなものを、適確に身につけていてソツがなかった。

 『新平家物語』『銭形平次捕物控・人肌蜘蛛』『月形半平太』など、長谷川一夫中心のものに準主役で使われることが多かったが、市川崑監督が、金閣寺放火事件の『炎上』で彼を主役に起用した。彼は見事にその期待にこたえた。この一作で全国の雷蔵ファンは数十倍にふくれあがったといわれた。なにか切々と迫ってくるものがある、とあるOLはブルーリボン賞受賞の知らせをきいた時、肉親のような喜びようでそんな感想を語っていた。

 衣笠貞之助監督作品の『歌行燈』では、山本富士子を相手に、しっとりした情緒をかもし出していたし、『炎上』以来、市川崑監督と親交を深めていたらしく』ぼんち』に続いて『破戒』にも出て、好評を増した。藤村志保が、この作品のお志保役から芸名をきめたたといわれている。雷蔵とのコンビは成功だった。

(大橋恭彦、日本ブックライブラリー「日本映画戦後黄金時代第15巻・大映の主役」より)