もう少し欲しい色気と気力

伊沢 実際の年齢よりも若いね。若いというのは、幼ないということだが・・・。

谷村 テレ屋だしね。

早田 役者らしくないね、そのへんにいる学生だナ。

伊沢 ちょっと見た感じは生意気という印象を与えるね。

早田 生意気じゃないよ。関西の役者は、愛想がいいからね、みんな・・・。その中では、わるいほうだが、しかし決して生意気じゃないね。

伊沢 悪いというのは、彼の土性ッ骨だよ。

谷村 つけたようなお世辞はないね。

伊沢 あれはいい。関西的でないよ。

谷村 江戸的だね。

伊沢 だからアンちゃんになってパッと坐ったりしても、ちょっと恰好がつくんだよ。

谷村 もう少しうるおいと色気が欲しいな。それに線が細すぎる。

早田 どうかナ、一般的に云えばそうかもしれないが、雷蔵は、シンは通っていると思うな。

谷村 それはそうだよ。だが勝新の甘ッたるさは、必要だよ。その点でいわゆる色気のないということが、彼の欠点だろうな。

伊沢 しかもいまは、むかしの林長二郎の出た頃とちがって、「新・平家」のような技術になってるから、市川雷蔵の伸びるにはまことにいいチャンスだと思うね。現代劇のしぶいものをやっても、出来るんじゃないかという幅の広さはもっているね。

記者 雷蔵の現代劇出演の可能性は、あるわけですね。

伊沢 それも監督によるし、いまの所、ちょっとお店者とか、小市民的になってるね。

谷村 「薔薇いくたびか」の長谷川さんが踊りの師匠、そのお弟子の役程度ならいいやね。

伊沢 町人と武士とやくざと分けると、雷蔵は、その三つとの出来るよ。それに大名が出来るだろう!?・・・これはすごい。

谷村 案外、合うようで合わないのが、いなせだね。

伊沢 それと新派のいいものをやれば、これも出来るね。ちょっとまれなマスクだよ。

記者 歌舞伎の癖が映画の上に出て、まずいということがありましたか?

伊沢 映画として、そこまで出ている人はないね。

谷村 芸での云々は別として、動きには必ず出るものです、つまり形で処理しようとするんですね。

伊沢 「新・平家」にもそれがちょっとあるよ。進藤英太郎と話をしてるところで、スーッと横を向くときに、アクションをつけてて一回戻してまわるような首のまわし方をしてるナ。しかしそれはいいことだけどね。とにかく雷蔵にとって、いまが一番危い時だろうナ。

谷村 若干映画を知って来たしね。

伊沢 危ないナ。

谷村 ぼくが危険だと思うのは、映画が生半可判って来たから、そして人気もあるから、ここでヘマにスタア様になってしまうと困るわナ。

伊沢 あれくらいの形の俳優は、もう二、三年してからスタアになっていいんだよ。