雷蔵君を、もう一度大衆の中へ

司会 では、そろそろ企画の面についても意見がありますので、その方からひとつ・・・

落合 封切の仕方が気になるんですが、例えば・・・

(専務すかさず)

永田 この前の大菩薩峠と、忠直が続いた事でしょ?だいぶ云って来ましたよ。暗いものが続くと・・・雷蔵君にも、良く話したんだが、続く事を。丁度、あの時、菊池寛さんの十三回忌にあたったわけで、会社も損をしたけど本人はもっと不幸だったと思いますよ。大映では、二本は気楽なもの、後の一本は本人の希望するものをやりなさいと云っているんですよ。この気軽なものと云うのは精神的にですよ。

伊奈川 大映にはカラーがないと云う事を聞きますが。

永田 カラーを持つのは、よっぽど、ずばぬけていないと出来ない事ですよ。うちでも十代物、芸道もの、メロドラマ、母もの、喜劇、それに文芸大作とやって来ましたが、いつの時代でも変らないのは、“情”ですね、そこでこれからは、友情、恋愛を中心として行きたいと思っています。

落合 そうすると、企画部あたりがねらっている観客層は高いわけですか。

永田 相当に高いですよ、判断力に対する年令層ですね。映画を見てくれる度合の多い年令層。つまり、体積で観客層をきめる行き方ですね。

伊奈川 カラーがなくなって行きはしませんか。

永田 今までは、会社そのものが、時期的にいけなかったんだと思いますよ。さっき云った首脳部の切り替でそう云った面も変ると思います。例えば・・・企画部から出されたので桃山御殿と云うのが出たが、これはなんや、と聞いたら名古屋山三とお国の話だというので、そんなの知らんと云ってやったが・・・千姫御殿ぐらいなら多少ともわかるが・・・

落合 封切の組合せは、どこできめるんですか?宣伝ですか?

永田 主体は営業部です。

木村 組合せの変なのは困ります。ほかからくらべて大映は、時代劇と現代劇の製作バランスが取れているのにもったいないですね。

永田 AとA、ならいいが、BとBはいけないと云う事ですね、それから『おけさ唄えば』で橋君と組ませたのは、雷蔵君を大衆の中にもう一度、浸透させるためなんですよ。

大映映画ならず題名映画?

司会 ではここで宣伝の面で感じた事を一寸お話していただきましょうか。

落合 今の大映映画の題名はなにか安易に出来上った感じがするんですが。

永田 単刀直入に内容が一目でわかるという事はいいですね。うちは昔から大映映画といわれず、題名映画と云われて来ているんですがねエ。(笑)

落合 (笑)そうですか?松本清張さんの作は非常に題名がよいし、読んだ本自体おもしろいです。映画も題名に引かれて見に入る方も多いと思いますけど。

木村 そうですね、その松本清張さんで思い出しましたが、『かげろう絵図』の後篇は作らないんでしょうか。

永田 作らないですね。

木村 それに、ストーリーが途中で終っているのになにも予告がないのは不親切で、会社の信用問題になりませんか。

永田 社長命令で、終りまで作る事になっていたんですが、いろいろの都合であの様になりましたが・・・

伊奈川 『釈迦』ですが、今の人達にはうけないんではないですか、『王者の剣』の様になっては困りますものね。

永田 入るか入らないかは精神力によると思いますよ、始めっから入らないんじゃないかと思って作るのと、必ず入ると思って作るのと違いますよ。それに映画は、七年目を周期としている。七年前にやったものを今やると前より入るという・・・