松竹『愛染かつら』(原作川口松太郎)の再映画化に続いて、大映では泉鏡花の名作『婦系図』の製作を決定。本年初頭の大作第一弾として永田社長陣頭指揮のもと、企画鈴木あき成(あきは火偏に召)、脚本依田義賢、監督三隅研次、主演市川雷蔵、若尾文子というベスト・メンバーでこのほど準備を開始した。

 この作品は『金色夜叉』『不如帰』などとともに、哀切甘美な恋を描くドラマとして広く人々に愛読され、映画化も昭和九年の岡譲二・田中絹代の第一回から、長谷川一夫・山田五十鈴、鶴田浩二・山本富士子の名コンビによって再三スクリーンに、お蔦・主税の名シルエットを残している。

 雷蔵、若尾はともに今年の初仕事だが、雷蔵はさきごろ婚約を発表したばかり、若尾のほうも“ブルーリボン賞”を初め数々の主演女優賞を獲得、明るい話題に包まれた二人だが、「あまりに有名な物語ですし、新派の方々をはじめ、映画界でも大先輩の方々が数々の名演技を残しているので、ただお客さまのいままでのイメージをこわさないよう頑張りたい。わたしの見たお蔦・主税は、子どものときに見た長谷川先生のものですが、あまりはっきりした印象は残っていない。しかし、やるからには何か新しい面をプラスしたものにしたい」と抱負を語っている。

 またメガホンをとる三隅監督は、昨年日本初の70ミリ映画『釈迦』を手がけたホープだが、「新たに原作を読み直して気がついたのですが、有名な“湯島天神”の別れのシーンは、原作にないんですね。こういった情緒的なものよりも、どうも鏡花のねらいは、お蔦・主税の純粋な恋が世俗的なものによって、じゃまされるということに対する怒りにあるのですね。これには鏡花自身、芸者を隠し妻にしていて、先生の尾崎紅葉に別れさせられたという私生活のエピソードがあって、大変おもしろいことなのですが、シナリオ化にあたっては、こういった原作の線にそって、お蔦・主税という下町っ子のブルジョアに対する反抗精神を盛り込んだので大分変ったものになりそうです」と語った。