むつかしい夫婦の愛情

久我 清盛と時子この出会いはまア、なんとか演れると思うんですけど、一緒になってからはどうしたらいいのか知らと思ってるの、むろん経験があるわけじゃないしサ(笑)

雷蔵 と云うと、恋愛の方は・・・大丈夫ってわけですネ。

久我 その質問にはお答え出来まシエーン。(笑)

雷蔵 大臣やネ。やっぱり清和源氏の血をひいとる。殊に重盛という子供が出来てからの愛情の表現は難しいですネ、僕らには皆目見当がつかない。

久我 私『二つの処女線』という映画で、根上淳さんと駆け落ちして、赤ちゃんを生む役をやった事あるんですよ。でも、その時は根上さんが結局実家に連れ戻されて、私が一人で子供を育てるというストーリーだったから、夫婦の愛情というものはやらなかったんです。

雷蔵 とすると、僕は初婚で久我さんは再婚やナ。これは極漠然とした感じですけどネ、恋愛時代は、相当に愛情表現のゼスチャアというものを、お互いに示し合っていると思うんですが、結婚して一緒になってからは、そういう意思表示は要らなくなってくるんじゃないですか。

久我 それはそうでしょうネ、理想の夫婦というものは、空気みたいに、無くては困るけど、居ても少しも邪魔にならないというのが良いんですってネ。

雷蔵 三年ぐらいした時が、ケンタイ期と云って、夫婦仲がうまくゆかなくなるときだと云うんだけど、その時代が来れば、夫婦喧嘩をしたり、何やかやと演ることもあるんでしょうが、空気みたいに仲が良いというのは、演技する場合、大いに難しいですネ。

役柄と取りくんで

久我 映画では、時子は時忠の姉になってますけど、本当は時子の方が妹なんですネ。

雷蔵 そうですか。

久我 でも、時子が姉の方が、その気丈な性格とか、種々な話で、良いんでしょうネ『山椒太夫』で安寿と厨子王みたいに。

雷蔵 そうでしょうネ、成年くんが時忠ですから、どう見たって久我さんの方がお姉さまだし・・・。

久我 成年さんの時忠、素適ですネ、テスト・スチールも成年さんのは皆OKで、私のは全部ダメなんですよ。

雷蔵 やっぱり時代劇の方が良いんじゃないですか成年くんは。

久我 今日のセットの柳さんの白河上皇も、大矢さんの忠盛も、とてもお似合いですネ。

雷蔵 そうそう、大矢市次郎さんの忠盛なんて、僕が本を読んだ時のイメージとそっくりですネ。完全な武士でありながら、常に自分を押さえるということに馴らされている男、という感じが実に良く出ている。原作のスガ眼殿というのをどうするのかと思ってたら、大矢さんみたいに、眼を細くしていたら、スガ眼だか何だか分らなくて、それでいて一寸、底知れない性格が出てますネ。それにくらべると、原作の人物をホーフツと再現するという点から云ったら、僕なんか落第ですヨ。

久我 私も清和源氏の生れだからミスキャストね。

雷蔵 でもネ、こんなこと云ったら、生意気や云われるやも知れないけど、自分の役・・・というものより、どう演ったらいいだろうかというような役の方が、役者としては張り合いがありますネ。よしやったろう!という気が出て来ます。

久我 凄いファイトですネ、どうぞお手柔らかにお願いします。(「映画ファン」昭和30年9月号より)