素直なおしゃれ 小林栄三郎(理髪師)
理髪店を開業してもう三十五年にもなります。永田大映社長もお若い頃には、よく刈らせていただいたものです。私の店は元来演劇関係の方がよくお見えになり、関西歌舞伎の若手といわれる中村扇雀さん、坂東鶴之助さん、北上弥太郎さんたちから以前よりごひいきになっていましたので、雷蔵さんも京都へ来られるようになってからはずっと刈らせて貰っています。
映画スターといえば、頭の刈り方一つでもそれぞれの好みは別として、全般的に見て独特の映画スターらしい一種の誇張があるものですが、私は雷蔵さんには最初から他の人のやってないような素直なタイプをおすすめしました。また、それが雷蔵さんの好みにも合っていたようです。その代り別のおしゃれとして香水に特定のオーデコロンをすすめ、その香りを嗅げば雷蔵さんの匂いだという風にきめました。
当時の横綱、千代の山(後の九重親方、77年没)、栃錦(後の春日野親方、90年没)、若乃花(後の二子山親方)の三人が立ち会っての「断髪式」
今使って居られるのは、タイガー社のアポロデシアです。この匂いは、上品で人懐っこい感じで、雷蔵さんのお人柄にぴったりのもといえましょう。髪の形は『炎上』を撮られてから、短いままがいい、いつでも頭が洗えていいということで、いわば生えたままの感じの自然な形にしていますが、これは以前からフランスあたりで流行しているスタイルで、この間洋画で上映された『殺られる』というのにも、主人公がそれに似た刈り方をしているのに気づかれた方がおありと思います。
雷蔵さんに接して私なりに感じる事は、幼い頃から苦労してられたせいか、大変人情的で、そして瞑想的で関西弁でいって「しっくりした」方だと思います。若し雷蔵さんがスターになられなかったとして、普通の青年としてどの会社へ入られても、きっと立派にやって来られた事と、私は心からそう信じています。
(註:小林栄三郎さんは理髪師で、雷蔵さんがいつでも行く理髪店の方です。59年9月発行「よ志哉」13号より)