週刊朝日に連載中の吉川英治原作「新・平家物語」の映画化は大映と東映の両社が希望し、猛烈な競争となった。結局、大映がモノにしたのだが、競争が激しかっただけに、大映としては意地でも、いい映画にしたいと委員会まで作り、約半年にわたって準備していた。

 ところが、カンジンの清盛になる俳優が見つからず、委員会でも持て余した形だったが、それが市川雷蔵に決った。溝口健二監督、三たびグラン・プリをねらう大作にするといっているだけに、映画界に入ってわずか一年しかならぬ雷蔵が、清盛という金的を射止めたのは、異数の出世といえる。

 「関西カブキ」の名門、市川寿海の養子になった彼は、それだけでも幸運だったが、こんどの清盛の役は、彼の映画俳優としての、これからの運命を決めるだろう。カブキ俳優としても、「武智カブキ」でもまれた彼だが、若いだけに、カブキへの未練も捨てて、いまや映画一本で生きようと決意している彼━。 『花の白虎隊』で大映に出てからまだ十本たらずの映画出演だが、『千姫』では若々しい感じがよく出ている。

 顔全体があまい。口びるがぬれている。それがミーハー族の人気を一年たたぬうちに集めた。その人気ゆえに、大映も彼を清盛にすることを決心した。だが、吉川原作の青年清盛にしては、少し弱々しい。演技的にも、まだ映画演技というものをこなしておらず、カメラにもなれていない。彼の清盛は少し早過ぎるという心配もあるが、それを吹き飛ばすかどうか、見ものである。二十三歳、本名太田吉哉。(映画俳優)

(朝日新聞 06/10/55)