毒舌家の雷蔵さん

雷蔵さんと御一緒の映画に出たのは今度の「朱雀門」が始めてなのですが、何かもう幾度も御一緒したような親しみを感じてしまいました。

雷蔵さんとは一年前に、東京の成年さん(長谷川さんの)の家へ遊びに行らした時に偶然行き合わした私とお目にかかったのが最初でした。その時思ったことは、およそ映画とは似ても似つかない方だなということと、顔に似合わず大変な毒舌家だということでした。そのくせ、仲々おとぼけがお上手なのです。

人の困まる様なことをサラッと云っておいて、私が一生懸命答えると、「何ですか?」と知らばっくれた顔を見せるのです。普通の人だったら腹を立ててしまう様な場合もあるのですが、雷蔵さんだと何かおこれなくなってしまい、私も負けずに毒舌でお返しをすることで済んでしまいます。また、そういう時の雷蔵さんって、一番魅力的な様な気がします。(雷蔵さんおこらないでね)

「朱雀門」の時は始めての共演でしたし、私も撮影に入る迄大変心配だったのですけど、入ってみたら毒舌家には変りなかったとはいえ、時代劇での色々な約束事を一々手に取る様に教えて下さり、感謝感激したものでした。

大事に育てられたボンボンでありながら、外見に似合ず、タフな面があってアッと驚く様な頼もしさも感じさせてくれます。

一本共演しただけの雷蔵さんですけど、彼とは何年逢わなくてもいつも変らぬ親しさを持ち続けて行ける人だと思っています。雷蔵さんはそんな人です。(57年6月発行別冊近代映画「源氏物語 浮舟」特集号より)