女性から見た雷蔵さん
初めて雷蔵さんにお会いしたのは、たしか私がまだ六つか七つの頃でした。父や兄と同じ大阪の歌舞伎座でお芝居をしていらしたところへ、私が初めて遊びに行って以来、楽屋でよくお目にかかるようになりました。その時の印象が、今の雷蔵さと少しも変っていないというのは不思議なようですが、私には同じように思えてなりません。
当時、私は大へんなお転婆で、男の子のようだったと、今でも雷蔵さんから冷やかされますが、別にいじめられたというような記憶は全くありません。ただ私のきかんきだった幼少時代をよくご存知なだけに雷蔵さんには今でも頭が上がらない思いです。いや、恐らく一生上がらないかも知れません。だから、私には女性からみた雷蔵さんを語る資格などないのかもしれません。でも一見冷たそうに見える感じは、初めて会う人には取っつきにくいという印象を与えるそうですが、物淋しそうなあの冷たい感じは、やはり女性にとって一つの大きな魅力ではないでしょうか。
映画に入ったのは、二人ともちょうど同じころでした。最初は妹のような役をやらせて頂きましたが、最近では、恋人役や夫婦の役でお相手させて頂くようになりました。映画に入られてからの雷蔵さんは、すごく近代的な感覚で物事を処理され、巾広く生きていらっしゃるという風にお見受けしますが、その力強さは、万事何でも頼って行ける人だという感じを与えます。それだけにいろいろと人知れずご苦労をなさったことも多いと存じます。
また芸の方面でも、雷蔵さんはしっかりした基礎を持っておられます。私もご一緒のときは大へん緊張しますが、やり易いように私に合わせて下さるので大いに助けられています。私には悪い癖があって、一本の映画で必ず一度はNGを続出するということがよくありますが、そんな時でも雷蔵さんはさりげない様子で、黙って私の気持の静まるのを待って下さいます。そんなとき、お口の悪い日頃の雷蔵さんとは全く違った優しさを身にしみて感じることがあります。そして、こんな細かいことにも気を使って下さるのかと、あとで大へん恐縮するというようなこともしばしばありました。こんなことなど考え合わせて、女性から見た雷蔵さんとは、やはり理想的な男性のお一人ではないかと思われます。
(よ志哉25号より)