雷蔵さんと話し合うたのしみ 上田 良三
私達企画部にいる者にとって、一番大切なことは、勿論よい企画を立てることである。それは、書斎に閉じこもって本を読んでいるよりも、みんなと馬鹿話をしているうちに生まれてくるものだ、とよく言われる。
私もあながち否定はしないが、やはりよい企画は、勉強した上の話し合いでなければ、生まれてこないと想っている。・・・つまり、本を読み、絵を見、音楽を聴き、暇があれば東京へも大阪へも気軽に行って、そうして得たなにものかを話し合うことが、よい企画を生むと思っている。
俳優としての雷蔵君の地位は論をまたないが、彼はその点で実にすぐれた企画部員?である。
朝、昼、夕方、そんなことはおかまいない。暇があると、
「X Xさん、いますか」
そこには、東京から帰ってきたばかりの、また、ベストセラー(時代もの、現代ものを問わない)を読んできたばかりの端正な、或いは扮装そのままの雷蔵君の顔がある。
「これは、なりませんか」
「○ ○を見たが、あれをもとにして、何かよい話はできませんか」
企画者が検討する。
「いや、僕の狙いは、そうじゃありませんよ」
「ここが面白いですよ」
大変はっきりとした意見である。それでいて、傲慢さがない。つまり、間違っていないからだ。誉めてばかりいるのではない。企画部から見た雷蔵君のありのままの姿を書いただけである。
雷蔵君の声がする。廊下だ。
「X Xさん、いますか」
今度はどんな面白いアイデアをもって来てくれることだろう。話し合うのが楽しみである。
(筆者は大映京都撮影所企画課長)