陰の人たちがみた横顔
「起きるのはいつも一声で」 お付きの人 森本房太郎
歌舞伎出身の人は皆そうであるように、雷蔵さんにも男の私がずっと付き添って世話をしています。もう二年ほどになりますが、何しろキチョウ面な人で、性格も円く、悪ずれしていません。
映画界入り当初はファンの人たちに囲まれるのが大嫌いで、どこへ行っても逃げ廻っていたものです。しかし最近では馴れてきたせいか大して気にもならなくなったようですが・・・・。
一日一日のスケジュールを前日にきちんとたてて、それ以外の仕事は一切しない方針をたてているようです。寝る前に明日何時に起こすようにと私に言って休みます。そして自分で自分の身体に注意してつとめて長い時間やすむことに心掛けています。
仕事の関係その他で、平均七八時間ぐらいでしょうか。朝食はいつも食べずに会社へ出ますが、これも朝食を食べる時間だけ寝る主義にしているからです。
寝起きはまことによく、床に入ればすぐに眠ってしまうし、朝起す時は必ず一声でとび起きます。今まで二年の間、二声かけて起したのは僅か二日だけです。
暇な時には好きなマージャンをしたり、映画を観にいったりします。映画は好むと好まざるにかかわらず日本映画でも洋画でも気がむくままに観に行きます。錦ちゃんだろうが、千代ちゃんだろうが誰の映画でも観ることにしているようです。そして観ながらいろいろと勉強しているようです。
食べものは、小骨のある魚以外は何でも食べます。中でも好きなのは鍋料理。ふぐ、てっちりなどもちょいちょい食べます。ぜいたくというよりも、いろいろ種類の多いのが好きなようです。飲物は、紅茶かジュース、だけど一人でお店に入ることはめったにありません。やはり恥かしいのかも知れません。(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)