今年は、私生活の方では、新年早々から東京の宿で母がなくなったり、ぼくとしては珍らしくも、ふと引いた風邪が一ヶ月以上もなおらないまま、肉体的に苦しい撮影を続けたりして、まことに身辺おだやかならぬものがあった、といえます。
しかしながら、その反面、仕事の方はいよいよ恵まれている感じで、指折り数えてみると、もう四年越しにもなる永年の念願だった「好色一代男」もついに撮影に入り、この間全撮影が無事に終了したところです。ぼくとしても、自分のいま持っているすべてを傾注して、なにか満ち足りたような、こころよい疲れの中に浸っている感じです。よかれあしかれ、みなさんの御批判を大いに楽しみにしています。
この「好色一代男」は、みなさんもご承知かと思いますが、元禄という江戸時代でも一番はなやかな頃に、当時のあらゆる男性の夢を一身に実現したような世之介という主人公を描いたものです。
そのおかげで、撮影中はぼくの演ずる世之介も、毎日のようにいろいろ違った女性とたわむれ遊ぶ姿をして来たわけで、役得とはいえ、ほんとうに男冥利に尽きるような結構な役柄でした。
そういえば去年も、「ぼんち」があって、あの主人公の喜久ぼんも、世之介も似た感じで、京マチ子さん、若尾文子さん、中村玉緒さん、越路吹雪さん、草笛光子さんなどと、次々にラブシーンを展開していきましたが、ぼくも俳優としては、毎年一度くらいは、このような楽しくて気の好い役をやらしてほしいのもだと願っています。
さしずめ、頭に浮んでくるのは、「源氏物語」の光源氏か、「伊勢物語」の在原業平なんかが第一候補といったところですが、こうして考えるだけでも、次々と楽しさ湧いてきます。