『新・平家物語』の撮影の合間を見てくつろぐ市川雷蔵氏

 雷蔵の魅力は、その若さと新鮮さである。

 こんどの『新・平家物語』の清盛に推薦した一つの大きな理由であった。しかし、清盛を演じきるには、若さと新鮮さだけでは駄目である。精悍さと逞しさが必要だ。

 私は『千姫』において秀頼を演じた雷蔵を思いうかべた。ごらんの通り、素顔は坊ちゃんじみていて、頼りない。果して、京マチ子の夫になる役をこなせるかどうかの不安があったが、彼は、幼年から歌舞伎の舞台で本格的に鍛えたボリュームのあるセリフと適格な演技力で、見事に期待にこたえてくれた。

 清盛に推薦した理由の、そのニである。

 戦後、現代劇スタアは、あとからあとから出て来ているが、時代劇の分野では、まことに微々たるものである。その意味で、雷蔵は、なんと言ってもホープである。ホープであるから敢えて一言したい。

 それは、スタアになる前に役者になれ、ということである。つくり上げられた人気に溺れ、芸の勉強を怠るスタアがあまりにも多すぎる今日このごろである。

 ひたむきに芸道にはげんでいる今日までの彼には、そんな懸念はないが、この『新・平家物語』の清盛一本で、人気スタアの王座につく彼だけに、私の老婆心を書きそえておく。(大映映画・製作本部長)

註:雷蔵氏は大阪歌舞伎の大御所市川寿海の養子として青年歌舞伎俳優のホープだったが、昨年八月『花の白虎隊』でデビュー以来、大映時代劇の専属となり、『新・平家物語』では第一部青年清盛に抜擢され、その才能を瞠目されている。二十四歳。